第115話「弱音と相談」


天文部は、岩船先生が顧問をしている部活動。


部員は、この前まで留学生のセシルがいたのだが、この春で帰国してしまった。


ゆえに、今の部員は俺一人だ。



「村上は、このまま天文部を続けていきたいか?」



天文部唯一の部員である俺に、顧問の岩船先生からそんな質問。


俺の通う高校は、部活動強制参加。


人付き合いが苦手な俺にとって、部員の少ない・・・ゼロの天文部はオアシスのような部活。



「続けるつもりです」



やめるという選択肢は存在しない。


居心地が良い空間を、そんな簡単に捨てるつもりはない。



「そうか」


「どうしたんですか? そんな質問して」


「いや、私もこんな身体だし、今までは無理して何とかしていたが・・・」



うつ。そう友奈からは聞いているが、それが本当なのかは分からない。


でもとにかく、岩船先生は入院している。


健康でないことは確かなことだ。


幸いなことに、今は春休み期間だ。


部活に関してだけを言えば、まだ何とかなっている状況。


そして今、先生から新学期以降の話をされている。


つまりそれは・・・。



「先生・・・もしかして」


「あぁ。これからも教師としての仕事をしつつ、顧問をやっていける自信がないんだ」



そんな弱音を吐いた。


岩船先生の印象は、クールな感じの印象。


きりっとしていて、弱音なんて一切吐かないような性格だ。


そんな彼女から、自信がないという一言。



「でも、先生にだってあそこは、一つの居場所なはずでは・・・」


「居心地は良いかもしれないが、あれでも部活は部活だ。仕事が増えていることに変わりはない」


「そうかもしれないですが・・・」


「これから、先生の仕事をやっていけるのかも不安なところだ」


「辞めちゃうんですか?」


「今のところ、そのつもりはない。でも、これから先なにが起こるか分からないからな」


「俺は、辞めてほしくないですよ」


「そう言ってくれる生徒がいるだけでも、やっていく糧となる」



春休みはあと一週間ほどで終わる。


岩船先生は未だに入院という状況。


仕事を減らすことは、先生への負担を減らすことに直結する。


それを考えると、部活の顧問からは早々に退いてもらうのが良いのかもしれない。


しかしそうなると、天文部そのものの存続も危うくなってしまう。


悩ましいところだ・・・。


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