第113話「もしかしたら、もう二度と会うことはないかもしれない」
手続きを済まして、大きな荷物を預ける。
そうすると、いよいよ保安検査だ。
「んじゃ、気をつけて」
「今日はありがと。友彦」
「別に。一つだけ訊いてもいい?」
「なに?」
「セシル、他の友達とかもいたよね?」
「うん、それが?」
俺はともかく、セシルには天文部以外の友達がいた。
友達が少ないと豪語している人でも、クラスに友達の数人はいるのが普通だ。
セシルは留学生というおまけ付きということで、それはそれは目立っていただろう。
俺は遠目から眺めていたが、人間関係の輪のなかにしっかりと溶け込んでいた感じだ。
んで・・・。
「そのお友達は、お見送りとかしないのかなぁって」
空港まで来てもいいとは思うのだが・・・。
「あー、なんかそんな話あったよ。でも、断った」
「なんで?」
「見送りは君だけで十分だよ」
「そ、そう・・・か」
「それに、なーんか居心地悪かったし」
「悪かったって?」
「なんだろ、やっぱ文化の違いかな?」
「カルチャーショックってやつ?」
「慣れたと思ってたんだけど、そんなことなかったのかな」
セシルが数日前に、変なところで突っかかってきたことがあった。
それもその一つなのだろうか。
「やっぱり、日本の暮らしはストレスだった?」
「そんなことないよ。楽しかった。特に天文部はね」
「なら良かった」
楽しい思い出があるのなら良かった。
「んじゃ、そろそろ行くね」
「おう。元気でな」
「向こうの方が元気じゃないとやっていけないよ」
向こうってのは、セシルの地元。ヨーロッパ。
そこは、セシルの故郷であり、俺の知らない世界。
「気が向けば今度、セシルの地元にも行くよ」
「それ来ない奴が言うセリフじゃない?」
「まぁ気が向けばだからな」
「あはは。あと、岩船先生にもよろしくね」
「おうよ」
そして彼女は、左手で俺の左手を軽く握る。
俺の手の甲から、じんわりと彼女の暖かい手で包まれる。
そして右手で、俺の背中に手を、そして身を寄せる。
「またね」
そう言うと、スッと彼女の身体が離れていく。
これがいわゆるハグというやつ・・・なのか?
セシルはこちらに笑みを見せると、振り向いて、そのまま保安検査場の方へ向かっていった。
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