第110話「他人に無頓着」
春休みに、用もなく学校へ向かった。
足は自然と部室へ向かい、そこで偶然にもセシルと出くわした。
昨日の出来事から、セシルとはなるべく出くわしたくなかった。
でも、彼女は君が悪いほどに気さくで、まるで昨日のことなんか忘れてしまったかのようだった。
「セシル」
「ん?」
セシルは昨日のことを引きずっていない。
でも、このままうやむやにするのは気分が良くない。
「昨日は、ごめん」
ちゃんと、そう謝っておく。
建前とかそんなんじゃない。
本心で、心からの謝罪だ。
「どうしたの?」
「君の気持ちが分からなくなった」
「でしょうね。友彦って、他人に興味ないもんね」
そんなこと、初めて言われた。
そして、初めて気づかされた。
確かに俺は、他人に無頓着だ。
他人からどう思われようが、そこまで気にしなかった。
でも、セシルだけは違う。
よく思われたいという感情がある。
セシルだけにその感情がある理由は、よく分からない。
不思議な感覚だ。
でも、とにかくそう思える。だから。
「最後はその・・・仲良く、、、っていうか」
「プッ、あはは」
うまく言葉にできない。
でも、気持ちは伝えたい。
あたふたしていると、セシルが笑い出した。
それに困惑していると、彼女は続けてこう言った。
「ほんと、良くも悪くも友彦らしいよね。私は何も気にしてないし、昨日は言い過ぎたよ」
「あ、うん。こちらこそ、ごめん」
「空港まで来てくれるんでしょ?」
「うん」
「じゃ、今日は一日付き合ってもらうよ!」
「あ、うん」
そう言って、セシルは俺の手を握る。
強く握られた彼女の手は、とても暖かい。
そんな温もりを感じたまま、学校をあとにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます