第108話「不吉な予感。不穏な空気」


春休みが始まって、気づけば2週間が経過していた。


今日はセシルのお誘いで、学校の部室に来ている。



「おまたせ」



約束の時間から、10分ぐらい遅れてセシルはやってきた。


相変わらず、時間にはルーズな人だ。



「うん」


「ごめんね、急に呼び出しちゃって」


「別にいいけど、どうしたの?」



今日のセシルは、どこかテンションが低い。


いつもよりおとなしく見える。



「昨日、空港まで見送りに行きたいって言ってくれたよね?」


「うん」


「あれ、友彦の本心?」



その質問に、すぐには返答できなかった。


なぜなら、意図が全くつかめなかったから。



「どういう意味?」


「普通。友彦、そう言った」


「うん」



普通だと思ったから。


こんなにも仲良くしてくれた友達。


その友達が、遠く離れた国へ帰ってしまう。


そんな時、見送りに行くのは当然のこと・・・だと思うのだが。



「普通って、常識ってこと?」


「常識・・・とはちょっとニュアンスが違う気がするけど」


「じゃあ、みんなやってるから? 慣例? 慣習?」


「どうしたセシル。今日なんか変だぞ」



俺のその言葉に、セシルは我に返ったように黙り込む。


いつも明るく、まっすぐ前を見る彼女。


でも今だけは、下に目線を向け、うつむいている。


何かにひどく後悔しているような、そんな感じ。



「セシル?」


「やちゃった」


「な、なにが・・・?」


「最後に、君と喧嘩するつもりはなかったんだけどなぁ」


「大丈夫。なんとも思ってないか・・・ら」



それも地雷だったかもしれない。


彼女は何も言わなかった。


でも、なんとも思っていない。


セシルは何かを俺に訴えかけていた。


それに対し、俺は理解していない。


それどころか、なんとも思っていないって、はっきり口に出してしまった。



「え、えっと・・・今のは違って」



どうしよう。


何か言い訳をしたいところだが・・・思いつかない。


こんな微妙な関係になったまま、セシルと別れることになってしまうのか・・・?


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