第102話「いつもと違う彼女」


「岩船先生。入りますよ」



応答はなかったが、勝手にドアを開けさせてもらった。


病室はとても狭い印象。一人用で、ベッドがあって、本当にそれだけの空間。


ビジネスホテルの部屋よりも狭い印象。


そんな狭い部屋にあるベッドの上には、岩船先生の姿があった。


寝転がっているが、寝ているわけではない。


眼がはっきりとひらいている。



「先生?」


「すまないな」



岩船先生が、こちらに目線を向ける。


そして、すかさず謝られた。



「いえ」



軽く返事をする。


そして、会話が途絶える。


何となく、いや、誰が見ても、気まずい空気。



「その・・・友奈さんが、こっちに来てるみたいで」


「そうか」


「そろそろ、到着するんじゃないかなぁって」


「そうか」



あれ・・・?


いつも、こんな感じだったっけ?


いつも、こんなぎこちない感じだったっけ?


普段とあまり変わらない、岩船先生らしい返事の仕方。


でも、どこか違和感が残る。


なんだろうか。この感じ。


いつも以上に、会話が続かない。


そもそも、岩船先生はなぜ倒れたんだ?


人が倒れるなんて、普通じゃありえない。


それを彼女に訊いてもいいのか、それとも、触れない方がいいのか。


それすらも分からない。



「飲み物、買ってきますよ。何か欲しいのあります?」


「コーヒー」


「先生らしくて安心しました。買ってきますね」



様子がどこか、普段と違う。


でも、中身はしっかり岩船先生だ。


少し安心した気分で、病院の自動販売機へ向かった。


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