第95話「ほんのりする、彼女の香り」


休日。俺はなぜか、女の子の家に来ていた。


小さなワンルーム。たった6畳ほどの部屋に、テーブルとベッド。


目の届く位置に、物は数少ない。


ここは、セシルの自宅だ。



「来てくれてありがとね」


「どうも。というか、セシル一人暮らしなんだね」


「当り前じゃん。パパもママもフランスよ?」



言われてみれば、そうですよね。


セシルはこの国に留学しに来ている。


留学生がみんなそうってわけではないが・・・まぁ一人暮らしですよね。


海外だとホームステイとかあるようだが、日本でその習慣はない・・・と思われる。


だからこその一人暮らしなのだろう。



「やっぱ、物とか少ないな」


「生きていくうえで必要じゃないモノは、みんな不要なモノなのよ」


「結構な暴論だな」


「割と正論よ」



ドア付きの収納が一つだけ存在するが、それ以外に収納スペースは見当たらない。


棚やタンスといったものもなく、ただのワンルーム。


目の届く位置には、ベッドとテーブル、それから台所に冷蔵庫や電子レンジなどの家電製品。


ベッドの上に、枕と掛け布団、それからぬいぐるみ。


コンセント付近にスマホの充電器。


本当に、それぐらい。


それ以外はもう、目の届く位置に物が存在しない。



「あれ、これ飾ってあるんだな」



片付かれている部屋だと、余計に目立つそれ。


それというのは、ベッドの上に転がっているぬいぐるみ。


飾ってあるのかと言われれば、どちらかと言えばその辺に投げ捨てられているようにも思える。


そしてそのぬいぐるみというのが、クマのぬいぐるみ。


クリスマスに、俺が買ってあげたやつ。



「うん。友彦とお揃い」


「そういえば、そうだったな」



俺の部屋にも一応飾ってあるが、存在感はほぼない。


セシルの方はちゃんと使っているみたいだが・・・。



「なんか形崩れてない?」


「やめて」



触っただけなのだが・・・。


なぜか赤面したセシルは、取り上げるように・・・いや、もう取り上げてる感じ。


俺の手から、ぬいぐるみを奪っていった。



「えぇ・・・」


「ハズカシイヨ」



うん。ドウイウコトデスカ。


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