第90話「黒歴史は誰にでも存在する」


「そっからかなぁ。今の佳奈美ちゃんが出来上がったのは」



正月の深夜。年が明けたばかりのこの時間帯。俺と友奈は公園の展望台にいる。


自分の住む街の夜景を見ながら、岩船先生の過去について話をしていた。



「今さらなんですが、俺にそんな話をする意味って・・・」


「うーん・・・実はさ、高校時代のその友達が、佳奈美ちゃんに会いたいって言ってるんだよ」


「高校時代の友達が・・・でも、なんで今になって」


「今になって、というか、結構前からそう言ってるんだよね」


「なら、どうして今までその話をしなかったんですか?」


「タイミングってあるでしょ? それにさ、佳奈美ちゃんからしたら、トラウマの時代だから」



つまり、岩船先生に話しにくい。


だから、今まで保留にしていたってわけか。



「おれに、どうしろと?」


「佳奈美ちゃんにそういう過去があるってのを、知ってほしかっただけ」


「教えて下さったことには感謝しますが、俺はあくまで生徒ですよ。高校を卒業すれば、岩船先生とはほぼ赤の他人」


「そうとも限らないわよ?」


「いや、それしかないでしょ」



黒歴史なんて、誰にでも存在する。


まだ十数年しか生きていない俺にだって存在する。


今の岩船先生を見るに、そこまで精神が不安定というわけでもなさそう。


高校時代の友達が会いたがっている。


そう言ったところで、心を乱すようなことはしないと思うが・・・。



「一つ、聞いてもいいですか?」


「なに?」


「岩船先生って、今でも男性に対して、その・・・」


「今はないんじゃない? 現に、君とは相当仲がいいみたいだし」


「仲、いいんですかね」


「良いと思うよ。まぁそれが、教師と生徒の立場でよろしいのかはさておき」


「あはは・・・」


「そろそろ帰ろっか。家で佳奈美ちゃんが待ってるよ」


「そうですね」



そうして、夜道を歩いて帰路についた。


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