第89話「her history-Ⅳ」


「佳奈美ちゃんって、今は私より身長高いけど、当時は私の方が高かったのよ」


「そうだったんですか」


「むしろ、佳奈美ちゃんはちっこかった。そこを利用したのよ」


「利用した?」



最初は反対された。それは、春子おばさんに。


でも、佳奈美に降りかかっている現実を見て、黙っていられなかった。



「私はいまと変わらない身長。そして、悲しきかな胸はぺったんこ」



まず、美容室に向かった。


ばっさりと切った髪は、もはや女を捨てていた。


服装も変え、そして佳奈美の家に向かう。



“よっ、佳奈美ちゃん。今日からここで暮らすから”



「佳奈美ちゃんと同居することにしたんだ」


「ど、同居・・・」


「反対された意味、分かるでしょ?」


「は、はい」



でも、効果は抜群だった。


設定的には、佳奈美の彼氏だ。


バレないように、近所の人や佳奈美の友達には、男として接した。


佳奈美の負担を減らすべく、家事などのできることは尽くした。


こんなことで、佳奈美が抱える問題は解決するのか。


それは分からなかったが、意外なことに、佳奈美にまとわりついていた元カレは、遠ざかっていった。



「一番の強敵は、あっさり倒せたってわけ」



それは良かったのだが、それ以降、佳奈美は男性との関りを好まなくなった。



「そりゃ、トラウマだよ。経験のない私にだってわかるよ」


「経験って、セッ・・・のですか?」


「きみ、そういうのは触れないお約束だよ」


「スミマセン」



しかし、それだけならまだよかったのかもしれない。


最大の問題は、人間関係までも断ち切ってしまったこと。


自然と遠ざかっていった友達もいるけど、そうじゃない友達もいた。


「幸いにも、その友達は私とも面識があってね。弁明はしておいたよ」



冷たいことを言われる覚悟での弁明だった。


でも、その友達からは、心配の声が上がった。



「心配してくれてありがとうって、そう言ったよ」


「良い人たちですね」


「ほんと」



友達は良い人たちだった。


でも、佳奈美の心は閉じてゆく一方。


やがて、彼女は笑わなくなってしまった。


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