第88話「her history-Ⅲ」


倒れた佳奈美は、病院に運ばれた。


ようやく梅雨も明け、本格的な夏が訪れをみせた、7月初旬の出来事だった。



「倒れた原因は、疲労によるものだったらしい」



入院は数日程度で、すぐに退院した。


その後はすぐに期末テスト。


当時の担任が、夏休み中に追試という形で受けてもいいと配慮してくれた。


しかし、佳奈美はそれを断った。


元々自分のレベルよりも低い高校に入ってるが故、がっつり勉強をしなくても、赤点ぐらいは回避できる頭脳が備わってるからだ。


期末テストは無事に終了。もちろん全教科で赤点は回避している。



「期末テストが終わると訪れるもの、それはなんでしょう」


「えっと・・・夏休みですか?」


「正解! 夏休みになると、佳奈美ちゃんは逃げるように実家に帰ってきたわ」



当時は実家暮らしだった友奈は、帰ってきた佳奈美の姿をよく覚えている。


目の下にクマのようなものがあり、重たそうなまぶた、垂れ下がるような頬。


疲れている。それしか言いようのない表情だ。



「彼氏と別れ話をしたんだって。そしたら、キレられて」


「キレられて?」


「その・・・ほら、あるでしょ、水に溶かすと青くなるやつ。飲まされてね」


「睡眠薬の一種ですか・・・」


「うん。別名、レ〇プ・ドラック」


「されたんですか!?」


「詳しくは話してくれなかったから、分からないわ。でも、そんな話を」



言葉にならない感情が、その事実を知った友奈に襲いかかる。



「それで、逃げるように帰省。佳奈美ちゃん自身も、身の危険を感じたんだろうね」



それでも、バイトは続けていた。


以前から働いていたコンビニは辞めて、新しく飲食店で働き出していた。


それを知った彼氏は、仕事中の佳奈美のところまで押しかける始末。


結局、バイトはクビになってしまった。


リストラされたのか、佳奈美自身が自ら辞めたのかは分からない。


だが、バイトを辞めたのは事実だ。



「泣いていたな。もう、何をしたらいいのか分からない感じでさ」


「聞いてるだけで辛そうですからね・・・」


「私の膝の上、びしょびしょになるぐらいには泣いてたよ」



いまとなっては笑い話。


でも、当時は深刻な話だ。


佳奈美はまだ高校生。勉強が本業であり、現状はその本業が差し支えてる状況。



「これじゃいけないよねって、私が春子おばさんに相談したの。佳奈美ちゃんを救うために・・・」


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