第86話「her history-Ⅰ」
田舎町に生まれた一人っ子の岩船佳奈美。
田舎町とは言っても、集落に近い感じ。
辺りは田畑が広がるのどかなところで、自然に囲まれている。
「佳奈美ちゃんってのはね、昔は元気で活発な子だったんだよ」
そんな言葉から始まる友奈の目線は、ただひたすらに真っすぐ向いていた。
「えっと、昔ってのは・・・」
「小学生ぐらい?」
小学生の佳奈美は、よく喋り、よく遊ぶ。
友達も多くて、とても活発で。
そして彼女は、すくすくと育っていった。
「あれはたしか、高校生だったかな。1年生のとき」
集落に近いような田舎町に、高校など存在しない。
佳奈美は成績優秀。つまり頭が良かったので、余裕で公立校に進学できた。
場所は、家から最も近い公立校。それでも車で40分ほどはかかる。
高校生は車の免許を取得できないので、高校からほど近いところで一人暮らしをすることになった。
「佳奈美ちゃんは反対してたんだけどね」
「一人暮らし・・・ですか?」
「そう。家賃払ってたら、せっかく学費の安い公立校に行く意味がないって」
「でも、そこが高校としては、家から一番近いんですよね?」
「うん。でも、家賃込みで私立と変わらない金額を、春子おばさんに負担させるのは嫌だったんだろうね」
春子おばさんとは、佳奈美の祖母だ。ちなみに友奈からみても祖母にあたる。
祖母は農家だ。当たり前と言ったらおかしいが、とても裕福とは言えない収入だ。
「だから、バイトをはじめたんだ」
「岩船先生が、ですか?」
「そそ。せめて生活費は自分で稼ぐってね」
そしてはじめたバイトが、コンビニの店員。
理由は単純で、時給が高かったから。だ、そうだ。
「結構安直ですね」
「当時の佳奈美ちゃんなんて、そんなものよ」
でも、そこからが地獄だった。
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