第82話「抱負は忘れるもの」


日が暮れた。次に太陽が姿を見せるのは、年をまたいだ来年になる。


年越しそばを食べて、テレビには年末の特番が流れている。



「ちょっと、夜風に当たってきますね」



その場にいる岩船先生と友奈さんに言うと、窓を開けて、ベランダへ出る。


この時期の外は寒い。凍えるような冷たい空気が、肌に刺さるようだ。


空を見上げると、所々に星が見える。


天文部へ入部して、人と関わることが増えた。


そして、大切な友人を亡くした。



「何を考えてるんだ?」



物思いにふけていると、背後からそんな声がする。


岩船先生だ。マグカップを二つ持ってベランダに出てくると、俺の隣に立つ。



「ほら」


「ありがとうございます」



差し出してきたマグカップを受け取ると、手が温まる。


そこには、温かいコーヒーが入っていた。



「天文部らしく、天体観測でもしてたのか?」


「あいや、そういうわけでは・・・」


「そうか。まぁ今年は色々あったからな」


「はい。あり過ぎました」


「来年は、どんな年になるんだろうな」


「どうでしょうか」



来年か。俺は、もっとも青春らしい年齢という偏見のある17歳になる。


とはいえまぁ、青春を謳歌できるような人間でもないため、17歳だからと言って特に何もない。



「ところで村上、君は抱負とかを設定するタイプか?」


「しませんよ。どうせ忘れるんで」


「私と同じだな。でも、来年は設定しようかなぁって思ってる」


「それまたどうして」


「私もそろそろいい歳だからな」


「いい歳だから・・・?」


「結婚とかそういうの、考えるのならそろそろ限界の歳になりそうだし」


「岩船先生って、そういうの興味ないと思ってました」


「ないわけではないぞ。一応、世間体ってのもあるしな。うちは実家が田舎だからさ」



田舎というのは大変のようだ。


俺が今住んでいるこの街は、そういう世間体は存在しない。


独身だからとか、既婚だからとか、そういうので人に対する評価が変わることはない。


ここは片田舎の街だ。決して都会というわけではないが、そう言う感じになっている。



「大変・・・ですね」


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