第70話「ショーシャ」


旅行から帰ると、日常が戻ってくる。


日常というか、現実である。



「teacher?」


「ん? なんだ?」



その日は、何の変哲もないただの平日。


部室で、セシルが珍しく岩船先生に話しかけていた。



「センセーは、お酒とか飲む?」


「まぁ、嗜む程度には。どうしてだ?」


「そろそろボジョレー・ヌーボーの解禁日だから、友達がワインを送ってくれる」



ボジョレー・ヌーボーは、フランスのブルゴーニュ地方で作られるワインのこと。


11月の第三木曜日が毎年の解禁日で、この日から出荷が始まる・・・らしい。



「赤ワインだっけか、いいではないか」


「じゃ、ワインは先生にあげるね」


「そもそもだが、セシルはまだ高校生だろう。なんでワインなんか」


「友達の家族がワイン農家だからさ」


「ブドウ畑とかか?」


「そんなところ」


「いいな。本場のワイン、楽しみにしているよ」


「うん。でも、そこまで期待しちゃダメだよ」


「そうなのか?」


「別に高級品でもないし」


「大丈夫だ。酒の良し悪しは値段で決まるものではない」


「何かそれっぽいことを言っているようですが、先生はなにか分かるんですか?」



と、これはおれ自身の発言。



「いや、ほとんど分からない」


「えぇ・・・」


「フランスはFM Mle1915のイメージしかないぞ」


「ショーシャ軽機関銃じゃないか。そのイメージはさすがに古すぎますよ」


「アハハ、ワタシナニモワカラナイ」



セシルはそこら辺の話にはついてこれない模様。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る