第66話「あんなことまで、しちゃったのに」


起きたらびっくり。


女の子と一緒に寝ていました。


セシルは抱き枕のようにおれの身体を抱え、身動きが取れない状況。


彼女の寝息や甘い香り、自然とあたる柔らかい肌に、ぷにぷにとした頬。


たまらんわ・・・うん、そうじゃない。



「起きてくれセシル」


「実はもう起きていたりして」



急に眼を開けて、お互い数ミリほどの距離感でそんなことを言われる。



「なら、起き上がりたいのだが・・・」


「えぇ? もっときみのことを抱きしめてたいなぁ」


「なんでですか!?」



んで、根本的なことを尋ねてみる。



「なんでおれ、セシルと一緒に寝てるんだ?」


「えぇ? 友彦覚えてないの?」


「え、えっと・・・」


「あんなことまで、しちゃったのにさ」



既成事実を作られそうになったが、別に酒を飲んで酔っ払っていたわけではない。


寝起きで頭が回らなかっただけだ。


脳みそが働き出すと、その答えは普通に出てきた。



「そういえば、お化けがどうこうで」


「思い出しちゃったか」


「思い出しました」


「でも友彦、お化けとか怖いんだね」


「怖いってか・・・昨日のはトラウマ級」


「でも、忘れてたんでしょ?」


「寝起きは許してくれよ」



OS(WindowsとかMac)が立ち上がったのに、全く操作の出来ないPCと同じだ。


おれの脳みその起動ドライブはHDDなのだ。



「ところで友彦、昨日のそのはなし、詳しく聞かせてよ」


「詳しくって言われてもなぁ・・・廊下に人影があったり、水がポタポタ落ちる音がしたり、川の対岸に淡い灯を見たり・・・」


「え、それって別に不自然なことじゃなくない?」


「まぁ・・・今考えると、そうなんだよな」



廊下に人影も、旅館の廊下なのだから人がいてもおかしくはない。


水の音だって、隣の部屋の音かもしれないし、上の階の音かもしれない。


そうじゃなかったとしても、すぐそばに川がある。ポタポタというのは少し違うが、水の音という意味では、聞こえてもおかしな話ではない。



「いやでも、川の対岸に関しては・・・」



客室から見える川の対岸は、道があるわけでも民家があるわけでもない。



「誰か歩いてたんじゃない? 登山コースとか」


「もう日付も変わろうとしていた夜中だよ?」


「いるんじゃない?」


「いたらいたで、今度はその人が怖いわ」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る