第65話「意識したら負けである」


客室へ帰る途中。さきほど従業員の方から聞いた怪談話が頭をよぎった。


するとどうだろうか・・・。



「・・・?」



自分の部屋に戻る途中、廊下の奥に、どことなく人影に見えるものを発見。


他のお客だろうか。


時刻はもう日付も変わろうとしている頃。こんな時間に、廊下に出る人などいるのか?


それに、ジッとこちらを見つめてくるようにも思える。


気持ちだけ早歩きをし、そして部屋に入る。


部屋の中は真っ暗だ。既に眠りについている岩船先生とセシルの姿もある。



「ふぅ・・・」



一呼吸して、自分の布団に入ろうとする。


ポタ・・・ポタ・・・ポタッ・・・。


勘弁してくれ・・・そう心の中で叫んだ。


水の音だ。どこから? 心なしか、上からするような・・・。


気のせいだと思いたかったが、怖くて布団の中にもぐりこんだ。


ポタ・・・ポタ・・・ポタッ・・・。


水の音は止まない。ここまで来ると、気のせいではないのだろう。


思い切って布団からでると、洗面台の方へ向かった。


電気をつけて確認するが、蛇口が緩んでるということもなかった。


念のため、その蛇口を強くしめて、また布団に戻る・・・。



「え・・・?」



戻る際に、客室の窓から見える、淡い灯。


それは、川の対岸から放たれた光。


あまりにもさきほど聞いた話と一致していて、背筋に寒気が走る。



「どうしたの?」


「うわっ!?」



死ぬかと思いました。



「びっくりした・・・どうしたの?」



急に声が聞こえたかと思ったら、声の主はセシルだった。


彼女は布団から上半身だけを起こして、そこにいる。


多分、寝ていたところを起こしてしまったのだろう。



「すまん・・・いや、さっき従業員の方から怪談話きいてさ」


「それで怖くなったわけだ」


「まぁ・・・大体あってる」



お化けなんているはずない。


だから、これはおれが怖がってるだけ。


そう心に言い聞かせた。が・・・。



「一緒に寝る?」


「すまん・・・そうさせてくれ」



やっぱ怖いものは怖いです。


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