第64話「意識したら全てがそうに見える」
ロビーで旅館の従業員の方から、怪談話を聞くことになった。
和服を着た若い女性は、そっと隣に腰かける。
「そうですね。思い返し見れば、どれもインパクトに欠ける話なんですよね」
「そっちの方が、かえって現実的かもですけど」
「たしかに」
そう言ってから、彼女はゆっくりと話し始める。
その話は、とてもありきたりなものだった。
廊下の奥から謎の人影が見える。天井から水がポタポタ落ちる音がする。旅館のすぐそばを流れる川の対岸に、謎の光がある。など・・・。
ちなみに川の対岸は山だ。道路もなければ、民家もない。
だから、そんなところから光があるのはおかしいというはなし。
「確かに、どれもインパクトには欠けますね」
「そうでしょう? でも、毎日ここにいると、ちょっとした音がそれに聴こえてくるんですよ」
「あー・・・意識するとそうなりますよね」
「怖いと廊下も歩けないです。あはは」
「えっと、あなたはここに住んでいて?」
「そうですよ」
「それでも怖いんですね」
「我が家がお化け屋敷みたいに見えますね」
自分の家がお化け屋敷とは・・・住みたくないね。
ここの人には悪いが、個人的にこの旅館は本当に出そうに思える。
和風で木造造りの雰囲気も、それっぽさを醸し出しているのだろう。
「さて、私はそろそろ仕事に戻りますかね」
「すみません。仕事中なのに」
「いいんですよ。それに、あなたはお客様ですから。これも仕事って女将には言い訳ができます」
軽く手を振り、笑顔をこちらに見せる。
そして彼女は、自分の仕事へと戻っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます