第63話「お化けとか出たら怖いですもんね」


「疲れた」



旅館の客室に帰ると同時に、岩船先生はそう言って布団にもぐりこんだ。


昼間もどこかに出かけていたみたいだし、その疲れが出たのだろう。



「おやすみなさい」



とりあえず言っておく。



「あ、じゃあ私も寝るね」


「セシルさんも寝るんですか?」


「うん。わたしも疲れちゃった。えっちなことするなら付き合うよ?」


「やりません。おやすみなさい」


「ハイハイ。おやすみ」



二人とも布団に入って眠りについた。


おれもこれに便乗して、眠りにつくのも一つの手だろう。


しかし、どういうわけか眠気がしなかった。


部屋にいると電気をつけることになるので、そこを配慮して旅館のロビーに向かう。



「お疲れ様です」


「あ、どうも・・・」



自販機の前にいると、従業員に話しかけられた。


着物を着た、若い女性の人。まだ20代前半ほどだろうか。



「温泉、そろそろ閉めますけど、入りますか?」


「いえ、もう入りません」


「わかりました」



そう言うと、その人は姿を消した。


露天風呂がある方に向かったので、掃除とかをやりに行ったのだろうか。


旅館の仕事というのも、大変そうだな。


そんなことを適当に思っていると、その女性従業員が戻ってきた。



「ここ、日付が変わると消灯しますよ」



そんなことを教えてくれた。



「そうなんですか」


「電気は消えますけど、ここにいることは構いませんよ」


「まぁさすがに、暗い空間に一人でいようとは思いませんね」


「あはは、そうですよね。お化けとか出たら怖いですもんね」


「やっぱ旅館だから、そういう怪談話とかあるんですか?」


「どうでしょうか? まぁでも、ここら辺は山奥で人気(ひとけ)もないですから、いろんな話があるんですよ」


「そうですか・・・もしよければ、その話を詳しく。えっと、暇なので」


「いいですよ」


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