第57話「秘境にある日本旅館」


山奥にある和風な建物は、川の渓谷沿いにある。


辺りにはこれと言った他の建物がなく、ところどころに民家が見える程度だ。



「これが、旅館ですか?」


「そうだ。いいところだろ?」


「先生、とことん田舎・・・いや、秘境とか好きですね」



てっきり、温泉街とかに泊るのかと思っていました。


とはいえ、ここも雰囲気ばっちりの日本旅館って感じでよき。



「お待ちしておりました」



その声から始まり、部屋まで丁寧に案内してくれた。


部屋は2階にある6畳ほどの和室。窓からは川が見え、崖沿いに建てられてるが故、2階とはいえ中々の景色だ。



「そういえば、部屋を2つ用意するとかの話はどうなったんですか?」


「あぁ・・・いやまぁ、お金がかかるからな」


「そうですか」


「うむ。村上は大丈夫。先生は信じているぞ」


「え、何がですか?」



この前もそうだったが、岩船先生は何を危惧しているんだ?



「はぁ・・・まぁしらばっくれてるのなら問題はなかろう」


「え・・・?」


「そろそろ理解してくれないと、鈍感は頭に来るぞ」


「そんなこと言われても・・・」


「ならはっきり言おう」


「はい」



すぅーっと息を吸い、なぜか紅潮する岩船先生の顔。


そして、精一杯吸い込んだ息をはくように言う。



「お前、ヤるなら互いの了承とゴムはちゃんとつけろよ!?」


「そんなことしませんよ!? それに、そんなもの持ってきてないです!?」



先生は、それを心配していたのか。


よくよく考えてみれば、この空間に男はおれ一人。


セシルは女の子だし、もちろん岩船先生だって・・・。


気づかなきゃ幸せだったことを、いま気づいてしまった。


そしてセシルが声をかける。



「友彦、持ってきてないの?」


「え、? なにを?」


「ゴム」


「当たり前でしょ」


「私の、あるよ? 貸す?」


「なんで持ってるんですか!?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る