第37話「濃霧の朝」


寝起きは最悪だった。


昨日の夜、岩船先生と話したことが頭に残る。



「おはよう」



目をこすりながら身体を起こすと、聞き慣れた声で言われる。


声の主は、岩船先生。


客間が少ないとの理由で、同じ部屋で寝ていた。



「おはようございます・・・早起きですね」


「目が覚めてしまってな。君もそんなところだろう?」


「そうですね」


「散歩でも行かないか?」


「散歩?」



ということで、パジャマから私服へと着替える。


それから出発だ。


玄関を出ると、夏というのに肌寒いほどの気温。数メートル先も見えないような濃い霧。



「すごい幻想的ですね」


「ここいらじゃよくあることなんだがな。幻想的なのか?」


「まぁ・・・僕にはそう見えます」



そんな会話を挟みつつ、舗装もされてない田舎道を歩く。


無言のときは、土を踏む足音が響くほどに、辺りは静寂だ。


やがて道は、森の中に入っていく。森というよりかは、小高い山という感じだろうか。


背の高い木々が、辺りを覆い尽くす。


そんな道を歩くこと数分。曲がり角が現れる。


その曲がり角を曲がって、足を止める。



「す、すげぇ・・・」



思わず声が漏れてしまう、そんな光景。


霧に包まれた、鳥居と参道。



「村山神社って言うんだ。せっかくだし、お参りして行くか」


「ぜひ」


「この神社は、土地神様が祀られてるんだ」


「土地神様・・・」


「何のご利益があるのかは知らんが、とりあえず神聖な場所ってことらしい」



とりあえず・・・なんですね。


とはいえ、山奥に続く参道。


両サイドには背の高い木々があり、霧も相まってものすごく幻想的だ。


これは神聖な場所と言われても納得がいく。



「ふぅ・・・」



階段を数十段。平坦な参道を数百メートル。ようやく本殿だ。



「意外と遠いですね」


「それ、平林も言ってたな」


「平林さんとも来たことがあるんですか?」


「一応な」


「そう・・・だったんですね」



俺にとって、この場所は初めての場所だ。


でも、岩船先生にとっては、ある意味特別な場所なのかもしれない。


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