第36話「もし、過去に戻れたとしても」


真っ暗な田舎の川沿い。


なぜか手を繋いだままの俺と岩船先生は、立ち止まって空を見上げる。


そこには、天然のプラネタリウムが広がっていた。



「綺麗ですね」


「あぁ。私のお気に入りの場所」


「そうなんですか」


「足場が不安定だから、望遠鏡を置けないのがちょっと残念なところだがな」



望遠鏡の脚は三脚のような形状になっているので、石がゴロゴロ転がっているここでも置けそうではあるが・・・どうやら置けないらしい。


いや、置きたくないとか、不安定だから置かないとか。そう言った意味なのかもしれない。



「村上。最近はどうだ?」



唐突に訊かれた質問。



「えっと・・・まぁ、ぼちぼち」


「そうか。まぁ気持ちが晴れないのはしょうがないことだ。私もそうだからな」



気持ちが晴れない・・・それは、平林さんの件だろう。


あの一件から、警察が色々と捜査をした。


俺宛の手紙とは別に、彼女の部屋から遺書が見つかったらしい。


詳細は知らないが、警察はその遺書で自殺と断定。


親子関係や人間関係に悩みを抱えていたと、警察は公表した。


しかし、それ以上の進展はなかった。



「先生は、その・・・知ってたんですよね? 平林さんの悩みというか・・・そういうの」


「一応、そのつもりではいた」


「どしたら、彼女を助けられたんでしょうね」


「村上は、どう思ってるんだ?」


「どう・・・なんでしょう。でも、彼女、言ってたんです。幸せが欲しいって」


「幸せ?」


「はい。ちょうど、亡くなる前日。誕生日プレゼントあげるって言ったら、そんなことを」


「そうか・・・」


「幸せって、何なんでしょうね」


「難しいな」


「難しいですよね」



何が難しいって、もし、平林さんが亡くなる前日。


あの日に戻ることが出来たら、俺はどう行動すべきなのか。そこである。


いま考えても、どう行動したら良かったのかが分からない。


逃げようとした彼女を抱き寄せて、傍から離れなければ良かったのか?


夜や朝に、電話でもしたら良かったのか?


候補は浮かんでも、彼女の行動を止める決定打になるとは思えない。


俺は一体、どうすれば良かったんだ?


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