第30.5話「(平林綾香の遺書)」


友彦くんへ。



まだ出会ってから半年も経ってないけど、君には色々お世話になったね。



何から書こうか悩んだけど、まずは友彦くんが一番知りたいと思うことから書くよ。



私は昔から、家庭環境には恵まれてなかった。少なくとも、私はそう思ってる。



父からの性暴力とか、母の不倫とか。それがきっかけで、中学や高校の人間関係もうまくいかなくなってさ。



そんな中、手を差し伸べてくれたのが、岩船先生。



先生と話している時は、もう何もかもを忘れるぐらいに楽しかった。



だから、高校を卒業してからも、先生にまとわりつくように部室に出入りしていた。



そんな生活が丸1年続いたときに、新入生の入部者としてやって来たのが君だった。



それまでの天文部は、女の子しかいなかった。もちろんその子たちも、私とは仲良くしてくれていた。



そして、君も私と仲良くしてくれた。



とても嬉しかった。男の子とまともに関わったこともなかったから、君と一緒にいる時間も楽しかった。



だけど、大学での日々もうまくいかなくてね。



両親はとっくに離婚して、私は父方についていくことになった。



父はすぐに再婚した。新しい母は、表側や世間体はとてもやさしい人間だ。けれど、裏はそれまでの母よりもひどいものだった。



大学に行くのも辛い。家にいるのも辛い。



高校生の時みたいに、岩船先生と過ごす時間も多いわけじゃない。



どんどん病んでいって、生きていくのが辛くなったんだ。



前に、ずぶ濡れで学校に来た時あったよね。あれ、実は川に飛び込んだの。



死ぬつもりで。でも、失敗しちゃった。



それで、先生にすごく怒られたし、同時にまだ私の味方でいてくれるってわかって、ちょっとは生きようってなった。



なったんだけど、でも、辛いことには変わりなくてさ。



なんか、疲れちゃったよ。



ダラダラと書いてきたけど、書いてる私がちょっと辛くなってきたから、この辺で終わりにするね。



最後に、誕生日プレゼントありがと。



私から一方的に、それも強制的に・・・だけど、すっごく幸せなプレゼントだったよ。



キスをすると幸せになるって本当なんだね。なんていうか、気持ちが少しだけ楽になった気がしたよ。



でも、これで友彦くんに嫌われちゃったなぁって思うと、途端に怖くなってさ。



いつの間にか、君のことが好きになってたんだと思う。だから、いますっごく怖い。



君に嫌われることが、すっごく怖い。



それに、辛い日々。もう、逃げようと思うんだ。



でも、君のせいじゃないから、そこだけは勘違いしないでほしい。



君には幸せに生きてほしい。君が想う最高の人生を送ってほしい。



そして、またいつか会ったら、そのときは仲良くしてくれると嬉しいな。



綾香より。

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