第29話「午前中の昼前」


勢いだけで学校を飛び出したのは良いのだが、平林さんがいそうなところなんて見当もつかない。


思い返してみれば、彼女との関りって、部室で会って、その帰り道を共にする程度。


友達と呼べるのかも微妙な関係だが・・・。


とりあえず、昨日別れた河川敷のところへ向かう。


夕方ぐらいになると、そこそこの人通りがある片田舎の河川敷。


今は平日の昼間ということもあってか、土手上の道には人がいても、河川敷に人はほとんどいなかった。


10分ぐらい歩いていると、国道の橋にぶつかる。


国道は川を渡るために、橋が架けられている。


その橋下に、人影のようなものがあった。


近づいてみると・・・。



「・・・っ!?」



呆気にとられたが、咄嗟にスマホを取り出す。



「もしもし? 岩船先生ですか?」


「あぁそうだが」


「国道の橋に来てください。川のところの・・・分かりますか?」


「あぁ。何となく。見つかったのか?」


「・・・はい」



電話を切ると、5分ほどで岩船先生がやって来た。


ここまで走ってきたのか、ひどく息切れている。



「村上・・・」



俺の名前を口にする。この時はまだ、岩船先生の目線は俺に向いている。


しかし、その目線をそらした瞬間、絶句するように黙り込む。


それは、全てを察したのような表情。


棒立ちして、状況を必死に把握しようとするような表情。


しかし、それもほんの数秒。


すぐに腰を下ろした。そして、手を合わせる。


変わり果てた、平林さんに向かって・・・。


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