第28話「臨機応変な対応」


キスの感覚が、どうしても消えなかった。


あんなこと、初めてされた。


幸せが欲しいって、もしかして・・・。


朝のHR前の教室。誰かと話すこともなく、椅子に座ってそんなことを考えてしまう。



「村上、いるか?」



すると、教室に岩船先生が現れる。


彼女は担任でもなければ、学年付きの先生でもない。


何なら、授業すら受けたこともない。


だから、彼女がここに現れることは、かなり珍しい。



「なんですか?」



席を立ち、ドア付近にいる先生の元へ向かう。



「ちょっと来い。担任には話を通してあるから」



HRの時間が迫る中、言われた通りについていく。


やって来たのは部室。


朝に部室へ来るのは初めてだ。



「なんですか?」


「村上お前、昨日平林と帰ったよな」


「はい」


「最後に見たの、いつのどこだ?」


「えっと・・・夕方の川沿いだと思います。国道の橋付近」


「そうか」


「どうしてですか?」


「村上には話しておくか。他言無用で頼むぞ」


「はい」


「昨日の夜から、平林が行方不明らしいんだ。今日の朝に母親から電話がかかってきてな」


「え、本当ですか? 警察とかには・・・」


「まだ連絡していない。そこは母親が決めることだ」


「先生・・・おれ」



続きを言おうとした刹那、岩船先生が背中を叩いて言う。



「行ってこい」



俺が言おうとしたことは、何となく察していたのだろう。


岩船先生は教師という立場。俺が、「平林さんを探しに行きます」なんて言えば、それは止めに入るべきだろう。


なぜなら、俺はこれから学校がある。授業があるから。


でも、岩船先生は「行ってこい」と言った。


恐らく、黙認というか、私は何も見てないってことなのだろう。


でも、それでもありがたい対応だ。


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