第27話「彼女の幸せ」
「うーん・・・強いて言うなら、幸せが欲しいかな」
「幸せ・・・? それって、概念の幸せですか?」
「概念だね」
平林さんが誕生日プレゼントに要求してきたもの。それが幸せ。
どんなに高価な物よりも、ある意味難易度の高い物・・・いや、物なのか?
「難しいですね。幸せ・・・ですか」
「無理しなくていいのよ。さっきも言ったけど、気持ちだけもらっておくから」
「そう言う訳には・・・。平林さんにとっての幸せって、なんですか? できる範囲で提供しますよ」
平林さんが要求している幸せというのは、物理的な物体。物質。そういうものではない。
要するに、サービスとかそういうのだろう。
エンターテインメント? おもてなし?
とにかく、そう言うのだと思う。
「平林さんにとって、幸せってなんですか?」
「幸せって、なんだろうね」
そう問いかける平林さん。
幸せが欲しいといった本人が、その幸せについて理解してないのはこれ如何に。
「本人が理解してないんですか?」
「難しいと思わない? 幸せって」
「自分で発言して、何も思いついてないんですね」
「浮かんではいるよ。でもそれ、実現がかなり難しいものだからさ」
「浮かんでるんですか? なら言ってください。実現するかどうかはそれからです」
「ううん。言わないよ」
「どうしてですか?」
「ナイショ」
「えぇ・・・」
惑わせるような言い方。結局のところ、平林さんはプレゼントなど欲しくないのだろうか。
なんか、そんな感じに思えてきた。
「私の幸せ、できる範囲で提供してくれるんだよね・・・」
一歩前に出て、背中を向けながら口にする彼女。
「はい。そうしたいです。いつもお世話になってますし」
「そっか。ならさ・・・」
そう言うと、クルっと一回転。
対面で顔を合わせると、身長の低い俺の目線に合わせて彼女は膝を少し曲げる。
「許してよ」
小声で言うと、反応するスキも与えずに、唇と唇が重なり合う。
一瞬の出来事で、何も分からなかった。状況が理解できなかった。
彼女の舌が、少し開いた口から中に入り込んでくる。
独特な味がする。甘い・・・いや、その表現はおかしい。
言語化できない感覚が、脳を刺激する。
幸せって、こういうことなのか・・・?
やがて、彼女の顔が遠のく。
「ごめんね」
えへへと笑うと、また背中を向けてしまう。
「これが、平林さんの幸せなんですか?」
「そうかもね。ごめんね。ほんと・・・ごめん」
「い、いえ・・・」
「じゃあね。うん、さようなら」
悲しげな口調で言うと、彼女は逃げるように走り去ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます