第26話「彼女の欲しいモノ」
7月に入り、もうすっかり夏の陽気になった頃。
「ひさしぶり!」
部室(ぶしつ)のドアを開けると、そんな元気のある声。
黒くて長く、真っすぐな黒髪。眩しいほどの笑顔。
「久しぶりですね。平林さん」
平林綾香。実に2ヶ月近く、部室に姿を現していなかった。
が、ここに来て登場。それも、彼女らしい陽気な印象で。
「よく来たな」
「佳奈美ちゃんも元気してた?」
「あぁ」
久しぶりにやってきた平林さんによって、その日の部室は賑やかだった。
俺と岩船先生の二人しかいないときは、話すことがないためほとんどが無言だ。
たまに本業である天文学の話や、数少ない共通の話題であるFPSに関しての話はするが、毎日話すだけのネタがあるわけでもない。
平林さんがする話題は、そのほとんどが何気ない日常のはなし。
一見すれば、つまらなそうなありふれた内容だ。
それでも、楽しくて時間の流れを忘れるほどだ。
「そろそろ時間だな」
最終下校時刻。あかね色に染まる空を眺めつつ、帰宅の準備をする。
「ねぇ友彦くん」
「あ、はい」
「一緒に帰らない?」
「いいですよ」
ということなので、二人並んで学校をあとにする。
二人になってからも、基本的に受け答えしかしないような俺を相手に、平林さんは途絶えることなく会話を続ける。
これは一種の才能だと思う。
そんななか言った一言。
「わたしね、そろそろ誕生日なんだ」
川沿いを歩いている時のことだ。
平林さんはそろそろ誕生日らしい。
「そうなんですか。えっと、何か欲しいものとかあります? プレゼントしますよ」
「くれるの? ありがと」
「はい。でも、俺にセンスとかそういうのは無いので、欲しい物とか言ってくれれば助かります」
「欲しい物ね・・・うーん。ないかな? だから、やっぱりプレゼントもいらない。気持ちだけもらっておくね」
「ないんですか? 欲しい物の一つや二つぐらいありそうですけど」
「うーん・・・強いて言うなら、幸せが欲しいかな」
「し、幸せ・・・?」
平林さんが要求してきたものは、想像以上に難題なものだった。
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