第23話「雨と一緒に流れる涙」
部室はとても静かだった。
外から聞こえる雨の音。岩船先生が読む本をめくる音。
咳やくしゃみすらできないような静寂さ。
口を開けようにもできない重たい場の空気。
黙って窓の外を眺める平林さん。小説を読む岩船先生。
そして、やることもなくワークを開いて勉強をしているおれ。
とても居づらく、とても時間の流れが遅く感じた。
とはいえ、時間は止まっているわけではない。
「そろそろ下校しろ」
17時半になると、岩船先生が言う。
それからも、会話があるわけもなく部室をあとにする。
下駄箱で靴を履き替え、そして外を覗く。
「雨、降ってますね」
浮かない顔をした平林さんは、部室を出たときからずっと後ろをついてきている。
雨はやんでいなかった。先程よりかは幾分弱まった気はするが、それでも傘がないとずぶ濡れになるレベル。
「傘、持ってないですよね? 僕でよければ・・・」
「ごめんなさい」
そう言うと、ひろげた傘の中に入り込む平林さん。
これはもしかしなくても相合傘・・・と、心を躍らせる空気でもない。
校庭を通り、校門を出る。
何も言わずに、平林さんの家の方へ向かう。
俺よりも身長の高い平林さんが、ちゃんと傘の中に入り込めてるか気を遣いながら、ただただ無言で歩を進める。
「・・・はぁ」
変化があったのは、学校から10分ほど歩いたところ。
平林さんが急に、歩を止めたのだ。
「どうしたんですか?」
訊くが、その時にはもう、彼女は泣いていた。
顔を上にあげ、雨に打たれて、水と涙が一緒に流れ落ちる。
声を出してまで泣く彼女のことを見ると、再び傘の中に入れてあげることができなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます