第22話「空白の20分間」
「え、どうしたんですか?」
部室に平林さんが来て、思わずそう言ってしまう。
「いやぁ・・・ちょっとね」
そう言ってはぐらかす彼女は、全身ずぶ濡れだ。
白色のトップスに、黒色のボトムス。
そんな服装をしているが、その服からもポタポタと水が落ちている。
「これ、使ってください」
そう言い、タオルを渡す。
平林さんの濡れ具合は、尋常じゃなかった。
いま、雨はそれなりに強く降っている。
傘をさしていても、足元なんかは普通に濡れてしまうだろう。
しかし、彼女は頭から全身濡れている。
傘をささなかったのか? しかし、この雨は今日の未明から降っている。
さすがに傘を持っていないということはないだろう。
「村上」
「あ、はい」
岩船先生に声を掛けられる。
その方向へ目線を向けると、先生の顔は静かながらも狂騒そのものだった。
怒っている。それは誰が見ても分かるレベルに。
「ちょっと出ていけ」
「は、はい」
声はいつも通りだが、圧倒的なまでの威圧感があった。
そんな威圧感に負け、何も言わずに退室する。
残ったのは、岩船先生と平林さん。
ドアを閉めて、廊下で待機する。
怒鳴り声や、泣き声なんかは聞こえない。
廊下はとても静寂だ。
聞こえるとしたら、雨の降る音。
部室内ではどんな話がされているのだろうか。
わざわざ俺を追い出してまでする話とは、なんだろうか。
「すまない。もう入っていいぞ」
20分ぐらい廊下で棒立ちしたのち、岩船先生が声をかけた。
「分かりました」
そう言い、部室に戻る。
そこには、着替えを済ましてジャージ姿になった平林さん。その表情は、ここに来たときよりも俯いている。
どんな話をしたのか、訊きたかった。
でも、話してもらえないのは分かっている。
何のために俺を部室から追い出したんだよってはなしになるから。
だから、聞きたい気持ちをグッと堪えた。
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