第20話「某FPSゲームのボイスを丸パクリした手紙」


「これが印象に残ってる話」


「岩船先生が片付けのできない人ってことが、印象的なんですか?」


「違うわよ。考え方」


「あぁ」



聞いてるこちら側からすれば、屁理屈にしか聞こえない。


とはいえ、反論も難しい状況に追い込んでいるので、論破としては成立している。



「でも、部室って今は綺麗ですよね?」


「わたしの努力の賜物だよ。ちょいちょい掃除してるからね」



平林さんが掃除をしていたのか・・・。


言われてみれば、部室は次第に散らかっていき、ある日突然綺麗になっていたような・・・。


てっきり岩船先生が掃除でもしてるのかと思ったが・・・。これは予想外。



「俺もできる時にしますよ」


「助かるわ。あの人、ほんと散らかしちゃうから」



そして、クスクスと笑う。


陽気さが印象的な彼女には、あまりイメージの湧かない笑い方だ。



「ところで、話を戻して申し訳ないんですが・・・」


「うん」


「手紙の意味、理解できたんですか?」



あの某FPSゲームのボイスを丸パクリした手紙の内容。



「うーん・・・まぁ何となく」


「何となくは伝わったんですね」


「早い話、目の前の課題から逃げるなってことでしょ?」



目の前の課題。それは、勉強ではないだろう。


もちろんそれも含まれるとは思うが、例えば人間関係だとか、そういうもの。



「もう一つ、訊いてもいいですか?」


「なに?」


「この前の・・・えっと、ゴールデンウイーク最終日のことなんですが」


「あぁ・・・」



河川敷で、複数人の男子に囲まれていた、あの出来事。



「えっと、脅しとか恐喝とか、そう言うのなんじゃないかって、ちょっと心配で」


「心配かけたならごめんね。別にいじめられてるとかそういうことじゃないから。安心してね」


「そ、そうですか」



どこか腑に落ちないような言い方。


体調を崩してるのか、寝込んでいた平林さん。それを見抜いた岩船先生。


何かを隠しているようにしか思えない。



「偉そうで申し訳ないんですが、何かあれば相談してください。僕じゃ頼りにならないと思いますが、愚痴の聞き手ぐらいにはなれますから」


「あはは、頼りにしてるよ」



そんな会話をしたのち、俺は彼女の家をあとにした。


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