第18話「哲学は苦手です」


平林綾香。2年前に高校を卒業し、現在は19歳の女子大生・・・の部屋にいるわけなのだが。



「友彦くん」


「あ、はい」


「わたしは、どうすべきだと思う?」


「それを俺に言われても・・・」



岩船先生からの手紙を握りしめ、そして困惑したような表情。


先程まで流していた涙は枯れていたが、それでもまた泣きそうな、でも笑ってしまいそうな。そんな複雑な表情。


彼女が手にするその手紙に書かれていることは、誰が見ても困惑することだ。


しかし、平林さんはそこに対して悩んでいるのではないのだろう。



「なーんか、嫌になっちゃうんだよね」


「嫌・・・というのは」


「毎日、どうして生きてるんだろって」


「どうして・・・ちょっと難しいですね」



哲学は苦手だ。


どうして生きているのかと問われても、それに対する明確な正解はない。



「前にさ、佳奈美ちゃんに助けられたって話をしたじゃない?」


「しましたね」


「あれね、私に生きる目的をくれたんだよ」


「生きる目的?」


「別に、いじめられていたわけじゃない。家庭環境や人間関係だって普通。でもさ、ふと考えることがあるんだよ。わたしって、どうして生きてるんだろうって」



普通に生活をしていて、そういう哲学的なことを考えることはないだろう。


考えるとしたら、よほどのものだ。



「生きる目的があれば、生きてる理由になるってことですか?」


「まぁ近いかな。いや、あってると思う。どうして生きてるんだろうという問いに対して、今を楽しんでるからで、十分解答になってると思うんだ」


「ということは、岩船先生は楽しみを与えてくれたんですか?」


「そうだね。天文部に入ってからは、色々変わったよ。中でも印象的だった話があってね」



そう言うと、彼女はベッドに再び寝ころび、目線を天井方向に向ける。


そして静かに語り出す。


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