第13話「普通の天体望遠鏡じゃ、そんな遠くは見えません」


学校がある片田舎の街から、少し離れた小高い山。


そこの頂上には、整備された公園がある。


整備されてるとはいえ、そのほとんどが芝生になっており、遊具などの小さな子供たちが楽しめるようなものはない。


この公園は、展望台から見る街の景色が地元民には有名。


昼はもちろん、夜は夜景がきれいとのこと。


夜にここを訪れる人は大抵がその展望台の方に行くのだが、我々は街明かりが届かない公園の中央部にレジャーシートをひく。



「よく晴れてるね」



平林さんが言う。


夜なのであまり意識しないが、天気は昼夜問わずあるわけだ。


雲が出ていれば当然星は見えない。


しかし、今日は雲一つない快晴だ。


暗い公園からは、無数の星々が肉眼でも見ることができた。



「すごいですね・・・家の近所にこんなところがあるなんて」


「この辺だと、ここが一番よく見えるんだよ。私も高校生の時はよく来たよ」



と、そんな話をしている間にも、岩船先生が黙々と望遠鏡の設営をしてくれていた。



「よし村上。使い方を説明するからあとは自力で何とかしてみろ」


「え、、、はい」


「まずはここだ」



そう言い、鏡筒の上についている鏡筒よりも小さな筒状のモノを指す。



「こいつはファインダーってやつだ。ちっこい望遠鏡みたいなもの。こいつで観測する星を見つけるんだ」



ということで、実際に触ってみます。


ファインダーと呼ばれるところを覗くと、双眼鏡なんかで星空を観たときと同じような光景が広がる。



「焦点を絞る・・・えっと、なにを観測すればいいんですか?」


「なんでもいいぞ。好きなものを探せ」


「明るい星なんかが良いと思うよ」



なんでもいいという一番困る発言に、平林さんが補足をするかのようにアドバイスしてくれる。


地味にありがたい。


ということで、視界にある明るい星を適当にマークする。



「そうしたら、ここのアイピースから自力で何とかしてみろ」



けっこう適当に教えるんですね。いつぞやの座学の時とは大違いだ。


ちなみにアイピースは接眼レンズとも言うらしい。


取り外し可能。付け替えることによって倍率を変更でき、観測する対象によって使い分けるんだとか。



「あの・・・これ難しすぎるんですけど」


「いまどんな感じになってる?」



レジャーシートに座り込み、もう何も教えてくれなさそうな岩船先生に変わり、平林さんが声をかけてくれる。



「変にボヤぁって感じで」


「ちょっと貸して」


「あ、はい」



ということで、交代する。



「あー、これじゃ無理ね」


「そうなんですか?」


「佳奈美ちゃん、レンズどこにある?」


「ここだ」



わずか数秒覗き込んだだけなのに、一瞬で倍率が適切じゃないと気づき、そして流れ作業のように交換する。


なんというか・・・すごいですね(語彙力死亡)。



「はい。こんな感じ」



ピントを調整しくれたよなので、覗いてみる。



「あれ・・・こういうものなんですか?」



望遠鏡を覗くと、そこには星々がきれいに映っている。


しかし、俺が想像していたのは、特定の星を間近で見るものなので、ちょっと想像と違った。



「こういうものよ。星を間近で見るのを想像していたのなら、太陽系の惑星ぐらいが限界よ」


「そうなんですか」


「ちなみに村上は、なにを観ようとしてたんだ?」



レジャーシートで寝転ぶ岩船先生からの質問。


そう言われても、明るい星を適当にピックアップしただけで、それがどんな名前の星なのかは分からない。


そんなことを思っていると、平林さんが答えてくれる。



「覗いた感じ、必死にスピカ辺りにピントを合わせようとしてたわね」


「無理に決まってるだろ」



そんなこと言われたって、分からないんだから仕方ないじゃないか。


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