第7話「岩船先生の天文学講座(前編)」
知識も興味もない俺が、天文部に入部した。
「何が知りたいんだ?」
岩船先生が、そう言う。
いつも暇そうに座っている先生が、今日は珍しく立っている。
目の前にはホワイトボード。
「えっと、じゃあ基礎の基礎から」
勉強は嫌いだが、ある程度の知識が必要ってのは理解できる。
天文部として真面目に活動する気はないが、かと言ってサボることも岩船先生は許さないだろう。
妥協点ってやつだ。ある程度の知識をつけた方が、建前の活動内容も思い浮かぶってものだろう。
「基礎の基礎か・・・」
「はい」
「なら、ちょっと変わったところから考えてみるか」
「変わったところ・・・」
「地球ってのは、太陽の周りを公転しているってのは知ってるよな? それとも天動説者か?」
「いえ、地動説者です。それは分かります」
地球が中心で、その周りを太陽やその他の天体が公転する考え方。それが天動説。
今どきそういう考えの人はいるのだろうか。
ちなみに地動説が、現実の宇宙。太陽が中心で、その周りを太陽系の天体が公転している。
「まぁ天動説でも地動説でも、天体の周りを天体が公転するという点では共通している。では、天体はなぜ天体の周りを公転できると思うか?」
どうして地球は太陽の周りを公転できるのか。
どうして月は地球の周りをまわることができるのか。
訊いていることはそういうことだろう。
要するに、ここで俺が答えるべき解答は・・・。
「分かりません」
分からないものは仕方がない。
そんなこと、生きていて疑問に思うことでもない。
ないからこそ、知るわけもない。
「ふむ。では、ここにボールがあるとしよう。ボールを水平な場所に置けば、はどうなる?」
「え、動きませんよね、それ」
「その通りだ。では、このボールを一方向から力を入れて蹴ったとしよう。すると、ボールはどうなる?」
「前に進みます」
「その通りだ。何らかの力が加わり、動き出した物体。いや、動いてる物質は、他からの力がない限りは、ずっと直線上に動き続けるんだ」
「止まらないんですか? 蹴ったボールはいずれ止まると思うんですが」
「それは、地球の重力や空気抵抗などで他からの力が加わってるからな。でも、他からの力が全くなければ、決して止まることはない。これを等速直線運動っていう。前述のボールは、力を加えないと動かないってことも含めて、慣性の法則と言う」
等速直線運動は聞いたことがある。中学の理科でも習う単語だ。
慣性の法則はたしか、ニュートンの法則じゃなかったか?
「さて、この法則と、もう一つの法則を組み合わせることによって、天体は天体の周りを公転する」
「はい」
「きみは、遊園地とかにあるコーヒーカップに乗ったことはあるか?」
「ないです」
「・・・なら、公園とかにあるクルクル回る遊具とかは・・・」
「ないです」
「きみ、今までどうやって生きてきたんだ」
コーヒーカップと公園とかにあるクルクル回る遊具を、人生の全てみたいな風に言われても・・・。
to be continued…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます