第4話「二人の帰路」
「暇ならまた来ればいい。私は毎日あの教室にいるから」
下校時刻になり、岩船先生は最後にそんなことを言った。
あかね色の夕陽に照らされ、一人で帰路につく。
「ようよう、友彦くん」
校門を出たところで、待ち伏せていた人物に話しかけられる。
「え・・・平林さん。先に帰ったはずでは・・・」
「そうなんだけど、忘れてたことがあってね」
「忘れものですか?」
「違うよ。ほら、連絡先交換してないじゃん?」
「ほう・・・え、もしかして僕とですか?」
「それ以外誰がいるの?」
「岩船先生かと」
「先生の連絡先はもう持ってるよ?」
マジですか。
家族との連絡用で、チャットアプリはスマホにインストールされている。
とはいえ、なにゆえ俺の連絡先を欲しがるのだろうか。
「ほら、QR見して」
「え、えっと・・・どうすれば」
「ここをこうして、そうそう」
指示され、その通りに操作をする。
俺のスマホに表示されたQRコードを読み取ると、登録完了。
最近は便利な世の中だ。
「んじゃ、帰りますか。友彦くんは家どっちなの?」
「えっと、こっちの方」
「そっか。じゃあ途中まで一緒だ」
「そ、そうですか」
そして、二人で並んで歩く。
話題があればいいのだが、しばらくは無言だった。
俺はとても気まずく感じるのだが、平林さんは気まずいとか感じないのだろうか。
「あ、あの・・・」
「ん? なーに?」
思わず声をかけてしまった。
もちろん、気になることはあった。
おどおどとした声で、質問する。
「どうして・・・天文部に来てるんですか?」
「どうしてって・・・?」
「えっと、友達と来るとかなら分かるんですけど、一人で・・・それも、よく来ているみたいで」
「うーん・・・まぁ天文部に遊びに行ってるわけじゃなくて、佳奈美ちゃんのところへ遊びに行ってる感じかな?」
「か、佳奈美ちゃん・・・」
「岩船先生のことね」
「すごく、仲が良さそうでしたね」
「そう見える? だったら嬉しいかな」
「生徒と教師という関係には見えなかったです。なんというか、友達みたいな」
「そっか。でも、佳奈美ちゃんは友達なんかじゃないよ。すごく頼りになる先生。私を助けてくれて、寄り添ってくれた先生」
「・・・そうなんですか」
なにか、裏話がありそうだ。
すこし気になったが、それを訊くことはできなかった。
訊いちゃいけない、パンドラの箱のように感じたから。
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