第3話「空気を和ます救世主」


俺と岩船先生しかいなかった6畳ほどの教室に、ノックの音が響く。


ドアが開かれると、ノックをした主が姿を見せる。



「佳奈美ちゃん! 遊びに来たよ」



先生のことをちゃん付けで呼ぶその人は、とても陽気な印象だ。


岩船先生と肩を並べるほどの身長。黒くて長く、真っすぐな川に流れる水のような黒髪。


服装は私服だ。教師だろうか。それにしては若く見えすぎる。



「あれ? この子だれ?」


「見学に来た子だ」


「へぇ~?」



そして、興味津々な表情でこちらに向かってくる。


すこし腰を曲げ、目線を身長の低い俺と合わせる。


彼女の顔までは、物理的に近い。


鼻息まで肌に触れ、ちょっとでも動けばキスさえできてしまうほどに。



「え、えっと」


「ごめんごめん。きみ、名前は?」


「村上友彦です」


「私は平林綾香(ひらばやしあやか)だよ」


「あ、はい・・・えっと」


「彼女はここの卒業生だ。とはいえ、2年前ぐらいの」



疑問に思っていたことを、俺が質問する前に回答してくれたのは岩船先生。



「そ、そうなんですか」


「たまに遊びに来てるんだよね。もう部活なくなっちゃうかもって言われてたから、きみがいて良かったよ」


「まだ入部するとは決まってないんだ。彼に圧力をかけるのはやめろ」


「はいはい。にしても、佳奈美ちゃんも相変わらず暇してるね」


「暇は一番の至福だ」


「私は暇を持て余し過ぎてて逆に辛いよ」


「その時間があるのなら、ギリギリの単位をもっとどうにかしたらどうだ」


「ありゃりゃ、痛いところをついてきますね」



二人の会話を聞く限り、相当仲がよさそうだ。


そして、無言で気まずい雰囲気もなくなった。


ある意味救世主だったのかもしれない。


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