一学期

初日、尾行する。

俺と地味JKは職員室の先生に事情を説明し、とりあえず警察に連絡してもらった。


警察への事情聴取や親への連絡等で入学式どころではなかった。


地味JKと二人揃って欠席か。

欠席というより、クラスの奴と顔合わせ失敗というか。


「今日は生徒の皆にも不審者が現れたということで、親御さんに迎えに来てもらって帰ってもらった。君たちは当事者だし、もちろん注意深くはなると思うから大丈夫だとは思うが、くれぐれも注意してくれよ。生徒の安全が第一だからな。まあ学校を閉鎖するわけにもいかないから明日にも来てもらうが、十分に道中注意しながら…」


とかなんとか先生のありがたい忠告を聞き流し、帰路につく。


「あのッ」


しかし、ミスったな。警察が絡むだけでこんなに面倒なことになって、クラスの子と顔合わせすらできないとは思わなかったし。今度から無視するか。気分は悪いけど。


「すいません!」


後ろから声がかかる。

声をかけたのは多分地味JK。

うーん。応えるべきか。


「何ですか?」


振り向くと、そこにいたのはあの地味JK。

そういや地味JKってずっと言ってたけど名前聞いてねえな。


「あの! 今日はほんとにありがとうございました!助けてくれてとても嬉しかったです!」


「あ…まあ。人として当然というか、気にしなくていいですよ。」


「!!!」


なんか顔真っ赤なんだが。

別に下ネタ言った覚えはないんだけど。


「あのー。大丈夫ですか?」

「っ!だ、だ、大丈夫です!おっ、おっ、お名前っ、をっ、聞いてもいっ、いですか!」


絶対大丈夫じゃねえだろ。

噛みすぎやて。


「僕、鎌田 彗っていいます。一年五組です。よろしくお願いします。」

「かまた、けい。けい。けいくん。…ふふっ。」


地味JKはずっとブツブツ言いながらモジモジしている。


「あの…君の名前は?」

「はっ!わっ私は、五反田 桜花と言います。一年四組です!隣ですね!よろしくお願いします!」


、か。

珍しいな。


「よろしく。五反田さん。」


ここで敢えて名字で呼ぶことで、いきなり名前呼びするよりも引かれる可能性が低くなる!これは陰キャとして生きてきたこの数年の間に俺が身につけた特殊技能ユニークスキルである!


「名前で呼…いや、何でもないよ。よろしくね、鎌田くん。」


む、急にタメで来たか。

まあ僕もある程度は距離縮めときたいし、まいっか。


てか、俺社交性高すぎィ!

自分で自分褒めちゃうわぁ。

やり手の陰キャはこうでなきゃね。


「じゃあ、また明日。」

「またね、くん。」


なんか距離近えな。

まあ、近すぎて悪いことなんてないだろ。

それこそ何でも話してくれそうだし。


ま、いろいろあったけど頑張りますか!



/



そんな彗の後を追う不審な影がひとつ。


「ふふっ、へへっ、えへへへ。」


もしすれ違う人がいれば5mは距離を取りたくなる気色の悪い笑みを浮かべた女がそこにいた。


「彗くん。愛してるよ。彗くーん。ふへへ。」


桜花だった。


「彗くんのお家、やっぱり自分で見つけなきゃだよね♪」


愛する人の家くらい把握しとかねばならないのでは?

思い立ったが吉日。

善は急げ。

たとえストーカー規制法なるものに抵触しそうな行為であろうと、本人からすれば善なのである。

桜花はその見た目にそぐわずアグレッシブだった。

入学初日から同級生の家を特定する度胸のある女だった。


「うひひ、へへっ。」


気色の悪い笑みを浮かべながらしばらく、彗が自宅に到着した。


彗の自宅は二階建ての一軒家。

ちなみに、彗も桜花も、学校からは徒歩圏内である。


「ただいま〜」


そう言って家に入る彗をドアが閉まるまで見届けたあと、桜花はゆっくりと自宅へと歩みを進める。


その時、桜花は母親からのある言葉を思い出していた。

「いいですか桜花。運命の人に出逢ったら、まずはその人のことをよく調べなさい。住所や電話番号は当たり前、交友関係から家族構成、趣味嗜好まで調べ尽くしなさい。そして私達五反田一族の財力を用いて、徹底的に、かつ隙なく囲い込み、外堀を埋めなさい。お母さんもそうしてお父さんと結ばれましたから。」


この母親は愛娘に何を教えているのか。

甚だ疑問である。

これは教育理念が捻じ曲がった一族に生まれてしまった桜花の運の尽きということなのか。

いや、桜花からすれば幸運か。


「えーっと、マニュアルによると、最初に個人情報を網羅して、彼の好みの容姿になる…か。」


なんとマニュアルまで準備されていた。

一族の常習的犯行である。


「まあ家の特定はしたし、後はあの人たちにお願いすればいっか。」


あの人達とは、五反田家の使用人であり、各分野のエキスパートたちである。

運転手から一流シェフ、探偵や暗殺まで勢揃いである。

そもそも五反田家は由緒ある家であり、昔からの大地主である。

故に、人脈もいろいろと持っているのである。

例えば警視庁のトップとか。

話ならいくらでも通る。

大事な愛娘を汚そうとしたあのグラサン不審者は、今頃タコ殴りにされて尋問室にてくたばっていることだろう。


「ふふっ♪愛しのダーリン♪待っててね♡」


こんなことが起きているなど、彗は知る由もない。

…かわいそうに。


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俺はヤンデレなんて決して求めていない。求めていないのに… けだまー @kedamaa

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