俺はヤンデレなんて決して求めていない。求めていないのに…
けだまー
運命の人との出会い
プロローグ
入学式。
それは学校生活のスタートラインである。
そして、それに遅れそうな男がいた。
前日に夜更かしをして、寝坊したやつがいた。
閑静な住宅街。
静寂に響くのは悲痛な叫び声。
「やばい!初日から遅れるぅー!」
鎌田 彗、15歳。
昔から運だけは良く、その運で人生の7割を築いてきた男。
高校だって施設がいいからという理由だけで私立を選んだ。それも自分の学力より割と高めのやつである。
中学の担任に「お前の実力じゃ無理」とはっきり言われてなお目上の高校を目指し、「運良く」前日に解いた問題が出題され、合格点をギリギリ突破した男。
つまり、この学校では下の下である。
そんな人間が初日から遅刻すればどうなるか、答えは明白。
マーキングされる。
具体的には、こいつは不良だということが教師の共通認識となり、生徒からもヤバいやつとしてレッテルを貼られる。
それだけはなんとしてでも避けなければならなかった。
華のある高校生活のため。
清楚で可愛くて黒髪ロングな彼女を作っていちゃいちゃするため。
この陰キャは、そんな計画をひっそり立てていた。
が、その計画も初日遅刻となれば全てがおじゃんである。
黒髪ロングで清楚な彼女候補から引かれてしまう。
初日遅刻など許されるものではない。
故に、とても急いでいた。
すれ違うおじいちゃんおばあちゃんが「最近の若者はチーターみたいだねぇ」と感心するほどに。
チーターではないだろ。
兎にも角にも、ここまで急いだことは人生でなかった。
鎌田 彗は今、所詮中学生の女など俺の相手に相応しくないと、中学の体育会の100m走ですら出さなかった本気を初めて出した。
人生最高速度更新である。
「や、やめてください!」
突然女の子の声が。
ちらっと覗き込んだ路地を見てみれば、いかにも不審者な、黒ニットサングラスマスク筋肉隆々男がJKの腕を掴んでいた。
「ええ…」
どういう状況…?
助けた方がいいよな、これ。
でもやだなぁ。ムキムキだし、強そうだし。
てか女のほう俺と同じ高校じゃね?
あとなんで路地通ってんだよ。
大通り通れよ。
でも…無視はできねぇな。なんか胸糞になりそう。
鎌田 彗はなんだかんだ優しい男だった。
そんな思考が彼の頭の中で展開されている間にも、目の前で状況は進む。
「いいじゃねぇかよ、お嬢ちゃん。どうせ彼氏の1人もできたことなさそうだし、できなさそうだし、ここで俺と一発ヤっちゃおうぜ。」
「ひっ…。いや…です…。」
JKはJKで地味だった。
あとお胸の方が残念だった。
グラサン不審者はまな板好きなのだろうか。
「お願い…誰か……助けて…」
助けてもなぁ…
ぺったんだし。地味だし。ロングちゃうし。正直タイプじゃないし。
地味JKは彗の好みではなかった。
性癖には刺さらなかったのである。
彗は筋金入りのおっぱい星人だった。
その時、彗の脳内にある考えが湧き出た!
待てよ…
これ助けたら遅刻の言い訳と、入学後の女子と繋がるためのパイプ、さらにレイプ魔から生徒を救った英雄という名声まで手に入るのでは?
こりゃ救うしかないぜ!
前言撤回。
クズだった。
どうしようも無いクズだった。
打算でしか動かない高校一年生だった。
打倒筋肉モリモリ男のため、きょろきょろと辺りを見まわす彗。
ゴミ置き場に捨てられているパイプを発見。
とても手頃なサイズだった。
手に取った瞬間、在りし日の思い出が蘇る。
幼い頃、夏祭りのくじ引きで手に入れた無駄に音だけデカい光る剣。
自身のことを中世の騎士と錯覚し、9ヶ月間、壊れるまで振り回し続けた。
もちろん電池を交換して常に爆音をキープしてである。
「落ち着け…。やるんだ。俺はやるんだ!」
最高の学校生活と、女と、名声のために!
そんな言葉が付いてきそうな宣言だった。
地味JKの制服に手をかける不審者に気づかれないよう背後にまわる。
「…ッ!!」
手にした鉄パイプに力を込め、ゆっくりとグラサン男に近づく。
「フゥー、フゥー。」
グラサン男は今にも地味JKの制服を剥かんと興奮している。
今しかない。
「エクストリームスラッシュゥ!!!」
彗は夏祭りの派手剣の感覚を思い出しながら、全身全霊で鉄パイプを振り下ろした。
/
私の名前は
この春から私立
名香学園高校は父と母が出会った運命の場所。
つまり、私も運命の人に出会えるはず…
わくわく。どきどき。
これからお洒落を頑張って、運命の人に出会って、付き合って、キスして、その後も… へへへ。
ちっちゃい時からお母さんが、「桜花もきっと運命の人に出会えるから安心しなさい」って言ってくれたから、きっと出会えるよね!
はっ!
いけない。早く行かないと遅刻しちゃう。
私は小走りで学校に向かった。
「ん?」
大通りから延びる一本の道。
「これ、近道できるんじゃ…」
その道は薄暗く、幅は自転車がすれ違えるほどしかない。
スマホの地図アプリで道の行く先を確認すると、この道はどうやら学校に続いているようだった。
「行ってみようかな。」
そして私は脇道へと吸い寄せられるように歩みを進めた。
「あれ?時間足りないかも。急がないとなあ。」
余裕を持って家を出たはずが、路地を彷徨っている間に、いつのまにか間に合うかどうかという時間になっていた。
「ちょっといいかなぁ、お嬢ちゃん?」
「え?」
明らかに不審者な男に腕を掴まれそうになる。
怖い。
逃げなきゃ。
その一心で駆け出す。
とにかく学校の方向へ走った。
が、一瞬のうちに追いつかれ、また腕を掴まれてしまった。
もうちょっとで広い通りに出れたのに!
「や、やめてください!」
必死に振り払おうとするが、ガタイのいい男には敵わない。
「いいじゃねぇかよ、お嬢ちゃん。どうせ彼氏の1人もできたことなさそうだし、できなさそうだし、ここで俺と一発ヤっちゃおうぜ。」
「ひっ…。いや…です…。」
こんな所で純潔を失う訳にはいかない!
運命の人に…捧げるんだ!
でも、力で敵わない。
いやだ。
そんなのいやだ。
もう既に諦めかけていた。
絶望していた。
それでも、なんとか声を絞り出す。
「お願い…誰か……助けて…」
男が私の制服に手をかける。
「フゥー、フゥー。」
男が豚のように興奮していた。
気持ち悪い。
お願い…誰か…
/
ゴッ
結構鈍い音が鳴った。
が、俺が振り下ろした鉄パイプは背中にヒット。
ヘッドショットとはならなかった。
…なんか『ヘッドショットじゃねえよ!』って聞こえた気がする。
原因は二つ。
一つ目は、単純に自分の腕の長さと鉄パイプの長さを見誤ったこと。
二つめは…
恥ずかしいが、身長が足りなかった。
ギリ170ないこの体では、190を越える男の脳天をかち割ることなどはなから出来なかったのだ。
しかし、運が良かったのか、背中に当たった途端グラサン男はウシガエルよりひどい鳴き声で悶絶していた。
できものにでも当たったか?
ていうか、そんなこと考えてる暇ねえわ。
「早く!こっちだ!呆けてる暇ねえぞ!」
地味JKの手を取り走る。
学校はすぐそこだ。
敷地内に入りさえすればあいつも追って来れないはずだ。
あと普通に遅刻だなこれ。
まあ言い訳は手に入った。
これで俺は初日から英雄だぜ!
めちゃめちゃるんるんで校門をくぐった。
地味JKにどんな目で見られているか気づかずに…
/
ゴッ
鈍い音と共に豚男が倒れてきた。
慌てて避ける。
開けた視界には一人の男の子。鉄パイプを持っいる。
足元には気持ちの悪い声をあげ苦しむ豚男。
それだけで状況を理解するには十分だった。
「早く!こっちだ!呆けてる暇ねえぞ!」
そう言い男の子…いや運命の人が私の手を取った。
優しく、でも力強い手だった。
運命の人が私の手を引き、学校へと導く。
ずっとその姿に見惚れていた。
私の…私の運命の人。
これから結ばれるんだ。
そして、はじまるんだ。
私と彼との、素晴らしい学園生活が。
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