03 和泉式部
それゆえ、
ちなみに、和泉式部の父・
「……ではこの
賢い赤染衛門は、宛名を見なかったことにして宮中へ向かった。
*
赤染衛門はすぐに和泉式部の控える間に入った。
「何でございましょう」
「この
赤染衛門の差し出した文には、保昌の筆跡で、和泉式部に「恋よりも恋に近しい気持ちを抱いている」と書かれていた。
「…………」
和泉式部は、
赤染衛門がさてどうなるかと見ていると、おもむろに顔を上げた。
「……きっと、保昌卿は女官と話すのが初めてで、それでその初めてが私だったため……」
そこまで言ったところで、和泉式部の娘、
「あ、お
「あ、ああそうでした。ご苦労様」
「…………」
小式部内侍はにこにこと微笑んでおり、無邪気なものだった。
一方で赤染衛門は、平たい目で和泉式部を見ていた。
いたたまれなくなった和泉式部は、あわあわとする。
「保昌卿はほら、自分でも、恋よりも恋に近しいとか書いているじゃないですか。だから、ほら……」
赤染衛門はずいと進み出る。
「お断りになる、と……」
「えーと」
この女。
もしや、惚れられることは多くても、惚れたのは少ない。いや、初めてだな。
赤染衛門はそう看破した。
何のことはない。
恋よりも恋に近しいという想いを抱いているのは、和泉式部もではないか。
……赤染衛門はある策を思いついた。
「分かりました。ではお断りを」
「え? いや、だって」
「だってじゃありません。少なくとも、返書を出すべきでしょう。何、貴女、もしかして」
「い、いえそんな!」
分かりました、分かりましたよと和泉式部は文机に向かった。
ところが。
「……どう断ったら」
「貴女のいつもの手口で断ったらいいじゃないですか」
そうか、と和泉式部は手を打つ。そして「どうしてもというのなら、
それが和泉式部のいつもの手口で、紫宸殿は警戒厳重なところで、そこから梅の枝を折って取ってくるなど、よほどの
「……できました」
「確かに。では届けてきます」
「あっ」
「何か」
「いえ……」
赤染衛門は和泉式部の
途方に暮れる和泉式部は、小式部内侍に「褒めて」と言われて、頭を撫でることしかできなかった。
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