最終話 色んな意味で目覚めた僕
「ん......。ここは......」
目を覚ますと、ここはいつもの僕らの部屋のベッドらしい。
部屋を見渡すと、なんというか、ところどころ違和感を感じる部分はあるものの、見慣れた光景であることには変わりない。
唯一、自分が裸でベッドに入ってることが気になる。
自分の局部とかがベッドに直接触れてると思ったら、汚い。せめてパンツくらい履いて寝かせてくれたらいいのに......。
けどまぁ、監禁にしては、優しい待遇と思った方が、いいのかな。
思い出せる記憶を辿ってみれば、最後に
暗い部屋に監禁でもされるのかと思ってたし、不覚にもつい気を失ってしまった。
あの瞬間のことを脳裏に浮かべると、ブルリと背筋が冷たくなってシバリングする。
「あ、ひーくん起きてる〜。おはよー♪」
ガチャリと寝室のドアを開けて、雅恋さんが入室してくる。
心做しか雅恋さんの髪が短くなってる......?
胸元まである長い髪もよかったけど、肩口まで短くしたボブも、似合っていて素敵だ。
......っと、そんなことよりも。
「............ひーくん?」
「っ! まさか、
僕を呼ぶ名前に違和感を感じて聞き返すと、雅恋さんは一瞬、驚いた表情を浮かべて、改めて、
雅恋さんは普段、
まぁ、起き抜けのタイミングで名前を呼び間違えられることは少ないことってわけじゃない。
そりゃあ、僕が目を覚ました瞬間に、表れてるのがどっちの人格かを判別するなんて、できないだろうしさ。
アクセを付けたり髪型を整えるまで、見た目は同じ身体なわけだしね。
けどさぁ......。
起きて最初に呼ぶ名前がアイツの方だなんて、あんまりじゃないか?
なんて思うのは、気を失う前に、悲しい事実、アイツじゃなくて僕こそが間男だったってことを知ってしまったからかもね。
寝取られビデオレターだと思っていたものは、実は「寝取られ」じゃなかった、だなんて滑稽な話だよ、まったく。
「どうせ、僕よりアイツのことが好きだから、アイツの名前を呼んだんでしょ」
我ながら、面倒くさいことを言ってる。子どもみたいに拗ねてみてるだけの、これこそ滑稽な振る舞い。
だけど、口が勝手に動いちゃったんだかだしょうがない。
僕がそんな益体もない言い訳を心の中で呟いている一方で、肝心の雅恋さんは口元に手を当てて、うるうると目元を潤ませている。
「えっ、雅恋さん? なんで泣いてるの!?」
「え、えっと、火継くん。一応なんだけど、思い出せる最後の記憶っていつのことかな?」
なんて変なことを聞いてくる。
僕らは普段、知らない間に人格が入れ替わっているから、その間に何日くらい経ってるかはわからなかったりする。
見渡す限り、この部屋には時計の類いはなくて、今が何月何日なのか、わからない。
けど、ちょうどさっき思い出してたところだし、「最後の記憶は何?」って質問には簡単に答えられる。
まったくもって、口に出したい話じゃ、ないけどね。
「僕が雅恋さんを寝取られたビデオレターを見せられた日だよ」
「............やっぱりそうなんだ。あぁ、よかった......。二度と火継くんにならなかったらどうしようかと思ったよ」
そういうと、雅恋さんは心底ほっとしたような表情をする。
普段、人格の入れ替わりは長くても2週間以内のスパンで起こるんだけど、これまでは、長い時でもこんな反応をされたことはなかった。
それが、こんな大げさな反応をするってなると、かなりの時間が経ってるのかな?
それとも、
「大げさだね。あれから何日経ってるの?」
「半年くらいかな」
......おぉう。思ってたより長かった。
文字通り過去最長記録だな。
そりゃあ、部屋の様子も、雅恋さんの髪型とかも多少は変わるってもんだ。
「あー、そっか。心配かけてごめん」
「ううん、全然だよ。元はと言えば私が悪いんだもん」
「まぁ、確かにそうだね」
あんな僕の心を粉々に砕いた挙げ句、脅しのような監禁宣言をされちゃあ、たまったもんじゃない。
そもそも僕は過去のトラウマから、女性との性行為に対する忌避感がかなりあるんだから、それを強制し続けられる未来に絶望しても仕方ないと思う。
「むぅ......ちょっとは否定してくれてもいいじゃん」
「いや、事実だからさ。それで? 僕と雅恋さんはもうお別れしたでしょ。悪いけど僕は雅恋さんの言うような関係になるつもりはないよ。アイツとよろしくやっててよ。もっとも、今でも続いてるのかは、知らないけどさ」
ワンチャン、アイツと雅恋さんの関係はすでに終わってる可能性もある。
半年もあれば、人間同士の関係なんて脆くも変わり果てるもんだ。
「もちろん、ラブラブだよ。それに、ふふっ。そのセリフ、久しぶりに聞いたなぁ」
何がおもしろいのか、クスクスと楽しそうに笑いながら話す雅恋さん。
残念ながらアイツとは順調に続いてるらしい。
「けど、大丈夫。火継くんが逃げられないように、しっかり準備してきたから!」
「準備?」
それはそれは、嫌な予感しかしないね。
一体何を準備したのやら。
外堀でも埋めた?
アイツの子どもでも孕んだ?
危ないビデオでも撮られてて、それを使って脅してくる?
どれが来ても、確かに追い詰められるなぁ。
ピンチすぎて逆にちょっと冷静になってる自分がいた。
そうして、覚悟を決めて次の言葉を待つ。
「そう、準備。火継くんの人格が目を覚まさなくなって1週間くらいしたころかなぁ。悲しかったけど、これは逆にチャンスなんじゃって思ったんだよね〜」
「チャ、チャンス?」
「うん。火継くんが眠ってる間に、火継くんをめちゃくちゃ開発して、私の身体なしじゃ生きられない「身体」にしちゃえば、「心」が拒絶してたって私のもとを離れられないんじゃないかってね♪ それもひーくんにお願いしたら簡単にさせてもらえるしね♡」
は? 開発? 雅恋さんの身体なしじゃ生きられない身体?
いくらなんでも、冗談にしてもデキがよくないでしょ。
「ははっ、なにそれ。エロ漫画じゃないんだからさ」
「あ、適当なこと言ってるって思ってる? でも、適当でも冗談でもなんでもないよ。火継くんの身体は完全に調教しちゃいました」
「な、何言ってるのさ。あ、あはは、なに、『身体は屈しても心は屈しないぞ!』とか言えばいいのかな?」
くっころってやつだ。
男女の立場は一般には逆だと思うけど。
「ふふふっ、そんな強がり、いつまで言ってられるかな? ほら、キスしましょ?」
ビクッ。
雅恋さんの『キス』というキーワードを聞いて、身体が硬直する。
同時に、僕の身体はまるで操られてるみたいに勝手に両手を広げて雅恋さんを迎え入れる姿勢をとる。
そうして、深い深いキスをされ............1分ほど経った頃......。
ドクドクと自分の下半身からは汚いもんが垂れ流されていた。
............まさかのキスだけで達してしまったらしい。
いやいや、さすがにそんなことある?
あまりに異常な出来事と気持ちよさに呆気にとられていると、また、「ふふっ」と雅恋さんの笑い声が耳に入る。
「ほらね? 苦労したよ〜。私とのチューでイク身体にしてあげるの。ひーくんはもう毎日私に泣いてえっちを乞うようになってくれたよ? いやぁ、火継くんを堕とすために始めたことだったけど、ひーくんも完全に手に入って、一石二鳥とはまさにこのことだねっ♪」
「な、なにしてくれてんの!?」
「なにって、だから、調教だよ。私の存在と快楽の神経を繋げてあげたの♡ ほかにも、今の火継くんは、乳首をつねったり、耳を舐めたりするだけでもそうだし、挿れた瞬間に出しちゃうカワイイ子になってるよ♡」
「う、嘘だ......」
「うふふ、ホントはさっきのチューで、全部わかっちゃってるくせに♡」
確かに雅恋さんの言う通り、僕はどうやら雅恋さんの身体なしでは生きていけそうにない。
すでに、もっとさっきのが欲しい、雅恋さんの匂いを嗅がせて欲しい、雅恋さんの身体が欲しいって、思ってしまってる。
前までの僕なら、そんなことそっちのけで、自分が出した汚い液体がベッドを汚してることを気にしてたはずなのに、今となっては雅恋さんと結ばれたい気持ちしか湧いてこない。
っていうか、言われてみれば、自分の身体から、女性が下半身から分泌する液体に似た、臭いような艶めかしいような匂いを感じる気がする。
..................まさか、ずっとこすりつけられたりしてたのかな?
............まぁ、それでも別に、いいか。
「これからは、火継くんもひーくんも、私が一生愛してあげるから、安心してね♡ とりあえず、ひーくん宛の寝取られビデオレター、撮影しよっか♪」
寝取られビデオレターが届いた。送り主はもう1人の自分 赤茄子橄 @olivie_pomodoro
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