もう一度、夏が来るのをお願いできますか。

-N-

もう一度、夏が来るのをお願いできますか。


 くだらない話だと笑ってください。

 私は夏に、ささいで、傷物の、忘れ物をしてきました。

 恋や青春の類で、もう私には似合わないものです。

 あがなえないピアノ・アタック。電子の歌姫。ファンの音は何万と世界を回転させて、冷房の効きすぎた部屋にあって私を閉じ込めていました。

 それをよしとしなかった私は、JRに乗って荒川を南へと超えていきました。入道雲はよどみなき白にあって、向こうは何があるんだろうと、期待だけを詰め込んだバックパックで。


 そんな夏にもう一度、挑戦をしようと思います。

 気の迷いかもしれませんが、しかしさまよえる私は、もう何度だって迷ったって良いはずです。

 もう一度、もう一度です。夏が来るのをお願いできますか。

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