ズレ

さくらだ

第1話

もっとちゃんと狂って仕舞えればよかったのに。

毎日毎日少しづつ確実にズレていく、狂っていく。

時計の針は少しズレてても誰も気に留めない。

5秒、10秒、30秒、1分。

このくらいなら、この程度なら。

ズレを気づかないふりして放置し続け、どんどんひどくなっていく。

1時間、2時間。

やっと直した時にはもう手遅れ。

どんなに直したってまたすぐに狂うようになる。

でも、もし初めから狂い切っていたら。

もはや手も出さず、諦めていただろう。

誰も構うことなく、忘れ去られていたであろう。

僕もそうでありたかった。

初めから、もっと狂っていれば。

こんなに必死に取り繕おうともがく必要もなかったのかもしれない。

何度も何度も必死に直そうとして、歯車を巻き直す。

ぱっと見はズレの無いように見えていたのかもしれない。

だからみんな安心して僕に言うんだ。

「もうこれで大丈夫でしょう、対処したんだから。あなたは十分に休んだでしょう。」

何一つ治ってなんかいない。

まだ休んでいたいよ。

むしろみんなからの言葉で焦る一方で、前よりひどくなっている気さえする。

僕はもうズレてない。

するべきことはしたんだ。

これで直っているはずなんだ。

直っていないのは僕が弱いだけ。

我慢しなきゃ。

あぁ、辛い。

いや辛いはずがない。

みんなが直してくれた。

休ませてくれた。

疲れた。

そんなはずない。

ずっとずっとこんなことの繰り返しだ。

何もできないくせに、手を差し伸べてくる。

それに僕が縋って、でもどうにもならなくて、どうしてって問いかけると

「もう十分休んだでしょう。こっちだって大変なんだいい加減にしてくれよ。」

って。

そっちが先に手を差し出してきたのに。

何もできないなら端から何もしないでくれよ。

投げ出して僕に罵声を浴びせるくらいなら。

手出ししないでくれよ。

理解してくれなんて言わない。

言ってない。

だからどうかほっといてくれ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ズレ さくらだ @sakurada_27

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る