一章エピローグ 【君の隣に】

 ───四日目、迷宮ダンジョンの奈落の最下層───


 さて、最下層にきたみたいだけど、ホントにここにアメリという人がいるのか?

 だとしても、人の気配が無い。警戒しないとな。


『赤い糸。私の愛しい人』


 声が響く。周りを見るに、ケルやキャルは聞こえていないみたいだ。だとしたら俺だけ。

 しかも、今の声。左の薬指を見ると、赤い糸。聖法である『結繋赤糸ケッコン』……

 はい、すべて察しました。なるほどね。もうアイツここに来たのかよ。はっや。

 まだ四日目だぞ?……敵わねえなあ。


「もういいだろ、でてこい」

「「え?」」


 二人がこちらを向いて疑問の顔を覗かせる。そんな顔でこっち見ないでくれ。僕が変な奴に思われる。


 というかさっさと出てこい。これで出なかったら私が恥ずかしいだけだから。

 いや待て、アイツはそれを狙ってるのか。悪戯っ子だからやりかねん。


 だったら無理矢理会わせるまでだ。


「〈能力暴発制御不可デヴェル・クラミトゥール〉」


 〈能力スキル〉を暴発させ、制御ができなくなるスキルだ。これで───俺と同じくらいの背丈、そして銀髪赤目が空虚から現れる。


「……バレた」

「バレるにきまってるだろ」


 未だにケルキャルは疑問の表情を浮かべている。

 そんな二人を取り敢えず無視しておく。


「早くないか?まだ四日目だぞ?」


 僕がそういうと、目の前にいるソイツはテトテトと小走りでこっちに来て、抱き着いた。


「……四日でも、私にとっては永遠の時間」


 ギュウッっと目一杯抱き締められる。ちょっと痛いのかな?メシメシ言ってるし。


「「えっとー……」」


 もう二人の頭が限界みたいだ。説明する?


「あーこいつとは、なんというか」


 説明しようにも、どう答えようというのか。さて?頭を掻いて、悩む。すると、私の腕の中にいるコイツが声を放つ。


「パルとは……パートナー。永遠の、相棒婚約者……」


 俺の胸に向かって喋っているから、熱い息が胸に掛かる。生きている証拠だ。


「あーうん?まあそういうこった」


 二人して同じポーズで固まっている。流行ってるの?そのポーズ。

 この後、私たちは迷宮ダンジョンを出るが、二人はなにも言ってこなかった。何故だろうか?

 あと、コイツの名前は確か、今はアメリ……だっけか?


 ***

 ───昼食時───


「そういえば、今日祝祭だった」


 ケルが昼飯を食いながら答える。未だにキャル宅に帰るのは、めんどくさい。だって多分、説明が必要だから……


 そろそろ、自分の拠点が必要かもな。トアノレスで済ませられるけど、一から作らないといけないし。


 また今度にしよう。


「祝祭ってどういうこと?」(ハムハム)


 タコス(もどき)を食いながらキャルが質問をする。美味しそうだ。


「えっと今日は、<邪覇獄凄愴試煉カザレイズ・ダ・ベータ>の僕らの国、クラマレル邪国の建国祭なんだ。そして、クラマレルは<邪覇獄凄愴試煉カザレイズ・ダ・ベータ>の6割を占める国土をもってるから、殆どの場所で祭りが行われているんだ」


 ケルの国ってクラマレル邪国っていうのか。ていうより国土、世界の6割占めてんの⁉でっか。


「……行く?」


 アメリはこちらを見つめながら尋ねる。もちろんイエスだ。


「じゃあ行くか、キャルたちの両親も誘って」


 さっそく準備するか。


 ***

 ───準備後、夜<邪覇獄凄愴試煉カザレイズ・ダ・ベータ>───


 到着すると、そこは夜だった。町は活気づいている。ガヤガヤと住人の声が夜空に響いている。

 屋台の光があっても、星はキラキラと煌めいている。そういう法則がこの世界にはある。


「祭りといえば、手分けして巡るか?」


 そう私が言えば、すぐに二人三組ができあがる。私とアメリ。ケルとキャル。フェイさんとガイラズさん(ついでのマーニャちゃん)。フェイさんの方をじっくりと見ると、ガイラズさんの腕をこれでもかってくらいに握りしめていた。どうやらまだ怒っていたみたい。


 祭り、といっても急に浴衣など準備ができないので、みんな私服で着た。

 祭りと言ったら浴衣なんだけどなあ。と妄想を浸らせながら屋台をめぐる。今度、作るかあ。


「……さっき、私じゃない女の人の事見てた」


 腕を抱きしめる力が増す。痛い痛い。(多分)アメリはご覧の通り、嫉妬深い。

 その内見慣れるだろう。何回も見ることになるのだから……

 なんやかんやで貰った樹海のクエストで稼いだ銭で屋台を回る。


「パル」

「なんだ?───っん!」


 熱っ?たこ焼きか。ハフハフして口に運ぶ。美味いかな?多分、美味いだろう。


「美味しい?」


 フッと微笑み、答える。その言葉を。


「多分な」


 再度、夜空を見上げようとすると、ふと眼下に城が映りだす。

 あいつらも多分。……キャルは手強い鈍感だぞ。


 ***

 同時刻、邪王宮(ケル視点)───


 いつかの言葉が出ない。そんな考えで迷っていた時、ふと思い出すのは迷宮ダンジョンのこと。ボクは、なにもできなかった。あの二人は異次元だった。


 クライシスは、あっさりとあの禍々しい魂を消滅させたけど、あれは物凄まじいものだった。

 国が何個も滅んでいても異論はない。天災レベルの魂だ。あの魂は、魔の色に染まりきっていた。

 いくら冥王のお父さんだって、あれに勝てるかどうか。


 キャルを守れなかった。キャルの心を〈定心読立法ていしんどくりっぽう〉で読んだ。過去を見た。


 キャルは対策として〈飄々風月ひょうひょうふうげつ〉という心が読みにくくなるスキルを使ってたけど、ボクの持っているスキルである〈定心読立法〉は最上級スキル。〈飄々風月〉は上級スキルだから、意味はない。


 過去も、気持ちも全部読んだ。本のように。そのうえで、思う。

 自分は、ほんとに弱いのだと。これだと、キャルを守れない。クーが、世界が。遠く感じる。


 今のままじゃあちっぽけな王だと思う。いや、今では王とも呼ばれる資格はない。


「ねえケル、なんでここに来たの?」


 今、僕らが居るのは民を見渡す真正面にいる。随分高く、町の全貌が見える。

 でも、下に居るみんなは屋台に夢中で、こちらには気づいていない。


 絶好の見せ場。


「えっとね、ここから見る───」ガヤガヤ

「えっなんて言った?ごめん、聞き取れなかった」


 町の人たちの声でボクの声が聞こえなかったみたい。


「いや、別にいいや。でも少し話そう?」

「え、まあいいけど。なに話すの?」


 そんなことをキャルが言ってしまうので思わず苦笑をしてしまう。


「な、なに笑ってるの?」

「いや、別に。ただ、少し、初めて会った時とまったく逆でさ」


 ***

 ───二日目時、昼。樹海───


 クライシスが『大罪領域結界メーザーライサルト』を使った後の時。

 キャルとケル。二人して、見つめあっていた。キャルが首を傾げれば、それに合わせてケルが同じ方向に首を傾げる。


 その瞬間、キャルは思う。可愛いと。キャルはショタ好きだ。ハスハスと隠しながらも隠し切れない息の荒さでケルに近づく。そして、「少し、お、お話、しよう?」ケルは、若干引いた。その上で、ケルは答える。


「……」(なにを話すの?)


 そう、頷きで。


 ***

 ───現在───


「また息荒げたりしないの?」

「そ、そんなことはしないよ。若干あるかもだけど(ボソッ)と、取り敢えず、その節の事は、なるべく忘れてて欲しいかも……」

「多分、一生かかっても無理そう」

「忘れて!お願いだから。……あっ」


 真正面を向いていたボクたちは二人して互いを見る。……顔が近い。ボクたちはバサッと顔を背ける。


 徐々に、手が近づいていった。そして、手が触れるもキャルはそれに慌てて離れさせようとする。


 ……ダメ。離れさせては。ボクから離れていく、その手をボクは、握りしめた。キャルは、その行為自体も驚愕して、それにあわせ、頬が紅潮する。いや、顔全体も赤い。


「……な、なに?」

「なにって?」


 ボクは聞き直す。キャルからの質問の詳細を聞き直すために。


「いや……手が」


 ああ、それのことか。


「ボクってなにも、できないと思うんだ」

「?別にケルは十分、立派だよ?」

「そう見えるかもしれない。でも、クーたちは違う。世界は、広いんだよ。ねえキャル。……ボクは、君を、守れると思う?」

「えっ?それって……」


 勘がどうにも鈍いキャルでも言葉の意味は沸々と分かってきたみたいだ。


「どう?」


 強く強調してはっきりと伝えられたい。だから聞く。


「……十分、守れると、思うけど」


 顔が赤い。林檎のようだ。こっちまで熱が伝わってきている。いや、違う。これは、ボクの熱さだ。


「失礼かもだけど、ボクのスキルで、キャルの過去を見た。クーにも少し教えてもらった」


 それを聞いたうえで、それを見たうえで、キャルに率直に答える。


「……凄いね。あれだけの過去があって、今なお、強く生きていて」


 キャルの瞳を見る。しっかりと、ボクの脳内に焼き付かされるように見入る。

 自身の無い、一言を漏らす。でも、そのうえで───


「……やっぱり、ボクが君を守る、なんて烏滸おこがましいかもしれない。……迷惑かもしれない……!でも、やっぱり───!」


 ヒュ~と音が聞こえ、瞬間。爆発の音が響く。真っ黒で星の明かりしかないこの夜で、盛大な花火が打ち上げられる。デカく、デカく。それは盛大に膨らみ、爆発する。


 キャルは相変わらず、ボクの言葉に耳を傾けている。花火の音でボクの声が聞こえないなんてキャルは一切として思っていない。


 ああ、そこだよ。


 ボクはキャルが───


 やっぱり、ボクはキャルが、好きなんだ───


「───君の隣にいさせてください。ずっと。命尽きるまで、いや。命尽きても。絶対に、君を守れるようなそんなおとこに───!」

「───もちろんだよ……」

「っえ?」


 一瞬のキャルの言葉に、虚を突かれ、言葉が詰まる。

 そんなボクをお構いなしに、キャルは、ただでさえ暗い夜でもハッキリと見える頬の紅潮が、花火でさらに見えるようになった顔で、告げる。


「だ、……だ、から、私の隣にいさせてあげる!一生でも!死んでも!だから、だから……───」


 暖かい。そうか、抱き着かれてるのか。ボク。

 ボクも抱きしめ返す。そっと優しく。情熱的に。


「ずっと、一緒に居よ?」


 キャルの言葉が、暖かくて、ボクの頬に一雫ひとしずくの涙が……


「最後の花火、上がるぞー!」


 町中から聞こえたその声と同時にキャルが口走る。


「同意なら、こういうこともいいよね」


「っえ───」


 ドオン!そんな花火の爆裂音と同時にボクらは互いに唇を重ねる。


 それはもう、幸せで。包み込まれた感覚だった。


 ***

 ───祝祭終わり、界渡り聖術式前───


「花火終わったかー」

「……いいもの見れた」

「あんまり茶化したりするなよ?」

「……多分」


 花火が終わって、祭りも終わる。どうやら、ケルたちは成功したみたいだ。ワタシがケルに言った甲斐もあったな。


 みんなと合流して、話あいながら帰る。ケル達は若干、茶化されてたな。

 今でも、顔が真っ赤だぞ?でもまあ、それくらい、お熱いってことだ!


「ちょ、ちょっと、クーも言わないでよ!あんたは味方だと思ってたのに」


 今回のことを、一つ言うならば。


 一章最終話だってのに、主人公が主役じゃないってどういうこと?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

4000兆回目の転生日記 ゆるん @yurunn

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ