25ページ,別の世界

 ───数刻後、【永久の迷宮ラビリンス】<奈落>、キャルメル、ファスト───


 覇気を上手く圧力と調和し、緩和すればなんとか立てるようになってきた。


 だけど、覇気だけで筋肉や神経を動かしている所為せいか、どこか覚束おぼつかない。


 ちょっと休憩のときにステータスを見てみたら〈最上級能力スキル〉〈覇気移動〉がいつの間にか追加されていた。


 思い出せば、覇気を使っている途中で頭上から声が聞こえた気がしたような……その時から、覇気を使っている時によくある"つまり"がほんの少しだけ無くなった気がする。


 その後も練習したら、日常生活程度には歩けるようになってきた。


 走るとか、剣を振るなどは簡単にできていた。前から持っていた〈覇気操作〉のLvレベルが5も上がっていた。それ程、覇気を使えなかったし、そもそも使おうともしてこなかった影響もあるけど、それでも5は上がりすぎたと思う。


 ちなみにLvにも段階がある。


 Lv1は使い立て。Lv2は結構、頻度が高く使う。Lv3はプロの業。Lv4になると、その道の研究者ぐらいでLv5だと達人ぐらいになる。


 ───とまあそんな具合にLv5というのは物凄いことなの。そこで私は一つ溜息を吐いて心の中で叫ぶ。


(なんでそんな領域に私が辿り着けた訳⁉ おかしくない⁉)


「だいぶよくなったね」


 瞬間、寒気が背中を覆う。さっきまでは覇気を全然使えなかったが、今ならば、わかる。先程は所謂いわゆる、鈍感だったのだ。だからこそ、今だからわかる。


 アメリには絶対、敵わない。多分というか後ろからドゴゴゴゴゴッと、音を放っている気がする。否、気がしているのでは無く、音がしている。


(『〈覇気感知〉を手に入れました』)


 世界の管理者の声だ。先程は覇気の操作に集中していたから声に気づかなかったけど今ははっきりと聞こえた。


 ───というよりも、だよ。


 なんで、こんなにも早く〈覇気感知〉を手に入れたのか。それは、ずっと覇気の練習をしてるからではない。そうだったら、”感知”は獲得できない。


 ───アメリの覇気が強すぎたからだ。アメリの覇気が強すぎて、ちょっと覇気の鍛錬をした私でも感じ取れた覇気のデカさ。一生敵わないのではないかと変な汗が出る。


「そのくらいなら、この門、くぐれそうだね」


「も、もしかして、この圧に耐えれないとその門は潜れないの?」


「そうだね。この門は、最初に試練を与える為に、圧をかける。この圧力を突破するために貴女は覇気を上手く使わないといけなかった。おめでとう、キャル。貴女は第一試練を突破した」


 アメリはパチパチと全く感謝が込められていないような拍手をする


「褒めてるよ」


「心読まないで」


 さも当然かのようなことをいうので、思わず突っ込む。自分でも、まだ余裕があるのかとでも思ってしまう。いや、自分は生粋なツッコミ気質なのかな。


 というより、これが第一試練だったの? でも、こんだけ時間がかかったのなら当然なのかな……?


「さあ、入るよ」


「え? どこに?」


 アメリのその一言の意図があまり理解に及ばなかったので質問を投げかける。


 だが、返ってきたきた返事は私にとって予想とは反した答えだった。


「なにって、<邪覇獄凄愴試煉カザレイズ・ダ・ベータ>だよ」


「いや、どこなの? それ」


 知らない単語ださないでよ。勉強苦手なんだから。


 そんな迂愚うぐな私にアメリは優しく説示を始める。


「先程、出したこの『突破滅界試練門レアズヴェアラ』、これは人によって行先が違う。貴女はこの門が発する圧を耐えるために覇気を使った。だから、貴女が覇気を更に上手く使える為の世界へ行く」


「それって、圧を筋力だけで耐えたら別の世界に行くってこと?」


「そう」


 アメリは短く済ませる返事を返した。


「そういえば、その、さっきの世界について具体的に言うと、どういうことなの?」


 その世界に一抹の不安を感じたので一言、放つ。


 アメリは、元は寡黙かもくな性格なのか、少しだけ間が空き答える。


「<邪覇獄凄愴試煉カザレイズ・ダ・ベータ>は、<邪王>が世界を占めている、覇気だけが全てを決める世界。覇気が弱い者はどれだけ他のエーテルやセレマが優れていても、この世界では生きていけない。貨幣を覇気とし、覇気が無いもの、それすなわち困窮こんきゅうとなる」


 つまり、お金も覇気がないと駄目だし、他の分野が優れていても覇気がなかったら生きていけないということ。


 いや、こわっ!


 でも、その世界に行けばもっと覇気が上手くなるってことか。それなら……いいかも……?


「行く覚悟ができたね」


 私の表情から察したのか、〈読心術〉を使ったのか定かではないけど、アメリはそう答えた。


 私は「うん」と二つ返事で返した。


「じゃあ門を開けるよ」


 アメリはグッと力を扉に掛けて扉を開ける。そしてそこに見えたものは、青紫色の液体? のようなものだった。だけど、その液体は別に重力が掛かっているわけでも無く、ただただ門の出入り口を満たしているだけだった。


「え、えーと」


 明らかに入りたくない雰囲気だった。今更になって入りたくないというのはズルい気がするが嫌な直感が私を襲う。


「行くよ」


 怖気おじけづいている私にアメリは強く少しだけ面倒くさそうに言う。


 そんなに強く言われたら「行きたくない」なんて言えずに「……わかった」としか言えなかった。


 恐る恐る一歩、また一歩と足を踏み出し、ついに門の出入り口へと足を踏み入れようとしていた。


「行こう」


 そう言い、ギュッと私の手を握った。どうやら、私は無意識に震えていたようだった。だけど……だけど、今は震えていない。凄く安心した気持ちになっている。


 ───いまなら踏み出せる。


 私は一歩、門に向かって歩き出した。


「───ちなみに、行くのは貴方だけだからね」


 そんなアメリの声だけが頭の中に響いて。


「……え?」


───数刻前、記憶、ラーゼ・クライシス?───


 キャッキャと子供たちが騒ぐ声が聞こえる。その中に公園の砂場で遊んでいる女の子が二人、笑顔で砂のお城を作っていた。


 そのお城はとても精巧に作られていていた。形はそう───二人のバックにある王国の宮だった。


 一人の女の子が声を発する。


「ねぇキャル、いつかこのお城みたいなデッカイ豪華な城に住んでみたくない?」


 キャルと呼ばれた、もう一人の女の子───12年前のキャルメルが同意という意味で答える。


「ねー、二人で住んでみたいね」


「二人っきりは寂しいからさ、お母さんとかお父さんも呼んで───」


「おばあちゃん、おじいちゃんたちも呼んで家族皆で暮らそう!」


 アハハハハと笑いながら二人は城を完成させていく。


 完成したお城はあまりに精工でその日、大勢の子供が砂場に立ち寄ったが誰もその砂のお城を崩すことはなかった。


 それから5年の歳月が経つ。互いのに親友である二人は手を繋いで冒険者ギルドの間の前に来ていた。


「じゃあ入ろうか」


 キャルの隣に立つ、フレアと呼ばれた少女がそう言い放ち二人はギルドへ足を運ぶ。


 二人は周りから沢山の視線が飛び交うが、そんなのはお構いなしに受付嬢の方に行く。


「あらら、今日はお二人? 見ない顔だけど……もしかして冒険者登録しにきたの?」


 受付嬢がそう言うと、二人は同時にコクッと頷く。しかし、受付嬢はその答えに少しだけ不安がある顔だった。


「うーん……あのね? アタシとしては別に二人とも冒険者登録しにきてもいいんだけど……」


 受付嬢が困っているとその肩に男の手が乗せられた。


「ギルマス……」


 受付嬢の肩に乗っけられた手を放し、ガハハッと笑う屈強な男性、キャルパパだった。


「よう、二人とも。まさかホントに来るとは思わんぞ」


 腰に片手をつけ額にもう一方な手を当て、くくくと口角を上げる。


 すると、受付嬢が驚きギルマスに向けて叫ぶ。


「まさかっ! 貴方が唆したのですか⁉ こんな純粋な女の子たちを!」


 いやいや、とギルマスは誤解を解く風に諭す。


「コイツらは俺の娘とその親友だ。この前、二人とも10歳になったから、勇気があるなら冒険者になってもいいぞ、と言ってみただけだ」


「それって結局、貴方のせいじゃないですかっ!」


 ギルマスはガハハッと笑い誤魔化ごまかした。


「はあ……分かりました。では、貴方たちの力を測ります」


「ち~と待てや、クレハちゃんよ~」


 声がした方へ全員が向くと、姿勢がけだるげに無駄に口を歪ましている男が立っていた。続けて受付嬢が言う。


「なんですか? バアカ・ズクさん」


 さらに、バアカと呼ばれた男は口を歪ませ、言う。


「いやさ~俺ね~苦労して冒険者になったのにこんな小さい子二人に、しかもギルマスの娘とその親友だからってコネで入ったら、ここに居る全員、納得できないと思うよ?」


 言い分はしっかりとしていたが、男のその表情が気味が悪かった。


 受付嬢はその答えに質問で答える。


「じゃあどうすればいいのですか?」


 バアカはニヤリとそれ以上、歪めない笑みをさらに歪める。


「俺と戦えよ」

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