26ページ,花たちの虚ろ

 ───同刻、記憶、ラーゼ・クライシス?───


「───別に私達はいいですよ」


 今まで一言も発さなかったキャルが口を開く。


 キャルは別にフレアに合意は取っていなかったが、それでも二人とも同じ気持ちだった。


「じゃあ決まりだ~な」


 歪んだ笑みを浮かべて、何処かへ歩き出すバアカだった。向かう先はギルドの外にある闘技場。


 そこは、神代技術物アーティファクトによって補助された『魂源こんげん皇級聖法』『補助仮不老不死ドマンベルダベーラ』が働いていた。


 ギルマスと受付嬢も頷き、バアカの後を続き、二人も手を繋いだまま闘技場へ歩いてくる。


 短いトンネルの暗い影から抜け、一気に太陽が視界を覆い、二人は目をしばたかせた。


 反対の方からバアカが来て、いつの間にか腰に槍をたずさえていた。


 観客の方からギルマスと受付嬢が顔を出す。


「では、これからキャルメルとフレアのペアとバアカの決闘を始める」


 決闘を開始する三人は視線を交差させる。


 バアカは槍を構える。そして「ちまちま一人ずつかかってくるなんてしちめんどくせえ。二人でこい」ニヤアと喋るごとにお得意の口を歪ませる。


 二人は互いに向き合い、コクッと頷く。二人は両腰にある二つの剣を同時に抜く。


 バアカが語る。


「この槍は聖槍せいそうガヴァエブ。貫かぬものを貫く、神が人間に与えた"人器じんき"だ。お前らは耐えられるのか?」


 バアカは一瞬にして間合いに移動し、リーチの長さを最大限に利用して槍を横一文字に薙ぐ。


「バアカはああ見えてもBランク冒険者だ。だから意思を持つ人器でも選ばれる。一般人───ましてや、子供なぞに勝てる見込みなど、稚魚がクマに挑むかのように無に等しい。だが───」


 観客席からギルマスの声が聞こえる。


 ───ッカッン!


 瞬間、金属の音がする。少女の力では、Bランクの冒険者にはとてもかないやしない。しかし、それは一人の場合であれば、だ。


「───”俺たち”の子だ」


「「私達は二人で一人だから。誰にも負けないよ」」


 キキキッと火花を散らし三人は睨みあう。


「いい気になるなよっ!チビッ子どもがっ!───っふ!」


 バアカは剣を押して三人は距離を取る。すぐにキャルとフレアはバアカの両脇を攻める。


 それをバアカはすぐさま槍で押さえる。グググッと軋む音がするや否や、バキッと鈍い音がする。


「…………なっ…………!」


 聖槍と呼ばれていた立派な武器は、ものの見事に二つへ分かれた。


 フレアが言う。


「それ、本物の人器じゃないね?」


「そ、そんなわけないだろ!だってあの商人が言ったんだ! それに、今までコイツは折れなかったんだっ!」


 さっきまでの歪んだ笑みを崩し、二人に怒号を浴びさせる。


 しかし、その言葉の反論をキャルが言う。


「でも、今二人の少女にその槍、折らされたよね? その商人に騙されたんじゃないの?」


「……っ」


 バアカはなにも言い返せなかった。そして、闘技は決着を示す。


 ───これが、後に世界最速でAランクに上り詰めた二人の少女の始まりだった。


「よく、あれが人器ではないってわかったな」


「やっぱり、お父さんはあれが人器じゃないってわかってたんだ」


 いつもの調子でギルマスはガハハッと豪快に笑いキャルを見つめる。


「もちろんだろ。あれが偽物ってわからないようじゃあ、ギルマスは語れないぞ」


 じゃあ───っと二人は目を輝かせ興味を引く。


「「じゃあ! じゃあ! お父さんは!」」


 ギルマスは片目を瞑り、答える。


「もちろん、本物をな」


 さらにパアァッと目を輝かせ、興味の絶好に至った二人だった。


 ***

 ───数か月後、記憶、ラーゼ・クライシス?───


「今日はお前ら二人の誕生日だな」


 フレアとキャル。二人は、同じ誕生日、ということではないが、それでも一日違いの誕生日ということなので、二人同時に祝われる。


「なにか、プレゼントとかあるの?」


 キャルがギルマスに上目遣いで聞いた。それに、ギルマスは頬をピクピクと引きらせて「お、お前ら……生々しいなぁ……」と言った。


「で?あるの?」


 フレアも続けて言う。


「お前らなあ……まあ、そうだな、きょうは12歳の誕生日ということで"ある物"を用意した」


 すると、二人は耳をピクッと動かせタタタッとギルマスとの離れた距離を一瞬にして埋める。「「どんなもの! どんなもの!」」二人して目を輝かせた。




 ───ッカン!ッカン!金属を叩く音が聞こえる。


 二人は鍛冶屋に来ていた。


「おう!鍛冶師のおっちゃん!久しぶりに来たぞっ!」


 山彦やまびこをするように手を口に覆わせ、奥の人に聞こえるように大声をだす。


 すると金属を叩く音が止み、老人がこちらを見る。


 熱い熱い金槌かなづちを持ち、こちらにズンズン歩いていく。二人は少し怖いものを見るような顔をでビクビクしていた。


 老人は険しい顔をしていてこちらに近づいてきた。そして老人は金槌を振りかぶって───思いっきり床に投げつけ笑顔で三人を迎えた。


「おう! ギルマス! 久しく見ぬ間にまたデカくなりおって! このこの」


 肘をギルマスに当てる。ギルマスは「いつものことだけど、大事な金槌を床に叩きつけていいんか?」と返した。


「なあに、今更俺の相棒を叩きつけたところで壊れやしないさ。それに、俺は"装備の声"が聞こえるが、コイツァ生粋きっすいのドМよ」と豪快に笑った。


 なるほど、ギルマスの今の笑いや性格はここからきているのか。


「して、このべっぴんさんな、お二人さんはなんの用事なんだい?」


 チラッと老人は二人に目をやる。すると、意外にもギルマスよりも先にフレアが答えた。


「あの……! 今日はアタシ達のオリジナルの武器を作ってもらいたくて、こちらに来ましたっ!」


 そうフレアが答えると老人が目を見張る。


「ということなんだ。ガルムじっちゃん。実はな、この二人は冒険者に入っていてるけど、オリジナルの武具がないんだ。だから作ってやらせてくれねえか?」


 すると、ガルムは腕を組み、うーんと項垂うなだれる。その様子を見ていた三人は固唾を呑んだ。暫くすると、うん、うんと二回頷く。二人は顔をパアっと明るくする。


「いいぜ、今すぐに作ってやるよ」


 ガルムは親指を突き出し、片目を瞑った。


 そして、その言葉の通りに、数刻も経てば、ガルムは腰を落とし、金槌を再び床に叩きつけた。心なしか金槌もいい音を鳴らしている。


「ほら、できたぞっ!」


「「はっ、はや……」」


 二人が驚いているとギルマスが説明する。


「ガルムのじっちゃんは〈聖・魔級能力スキル〉〈鍛聖たんせい〉をもっている。だから、こんなにも早く、武器ができる」


 二人がほへーっと言っている間にガルムが二つの武器を持ってきた。


 一つは赤いナイフ。もう一つは青い長剣だった。


「俺の〈王級能力スキル〉〈瞳王どうおう〉でアンタらの能力値ステータス以外のものを見てその武器を作った。あんたらにしっくりくると思うぜ」


 フレアがナイフを、キャルが長剣を持つ。すると二人は衝撃を受けた顔をしてその武器をまじまじと見た。


「どうやら気に行ったみたいだな」


 ギルマスがやはりと感心した様子で二人を見ていた。そして、ガルムの方を見てありがとう、と言った。


「なあに、俺とお前の仲よ。だが、金はたんまりと積んでくれよ?」


 ガルムは人差し指と親指で輪っかを作る。それをギルマスはフッと笑った。


「わかってるさ」


 ***

 ───二年後、記憶、ラーゼ・クライシス?───


 14歳になった二人の少女はAランクになっていた。


 世界最速でAランクになったことで、二人はこの”星”でちょっぴり有名になっていた。


 この日、最近の日課になってきている迷宮ダンジョンに二人は来ていた。


 奈落の34階。それが二人の今いる階だった。敵は、開闢樹人エントレンくらいは〈災害級〉。


 奈落で言えば、最弱クラス。何故こんな弱いのか分からないくらいだ。


 一つ、懸念点があるとすればたまにくる『見えない刃インビジブル・ブレード』だ。


 だけど、それも予備動作があるため避けられる。もし当たったとしても、致命傷にはならない。


「キャル!私、決めるよっ!」


「いいよっ!決めちゃって!」


 ザシュッと生物が切れる独特の音が聞こえた後に原木が倒れる音がした。


「ふは~~~~」


 フレアが、安堵と疲労の溜息をする。続いて、キャルも地面に倒れこみ「ぷは~~~~」と溜息を零す。


「どうする? 今日はこれで終わりにする?」


「そうだね~、あ、でも今日はお父さんに35階までって言われているんだった」


「そうなの? なら、あと一階だけちゃちゃっとやって終わりしますか~」


 フレアはグググッと背筋を伸ばし、立つ。続いて、キャルも。


 しかし……二人は気づかない。その少しの違和感を。


 ───奈落35階───


 迷宮ダンジョンは、浅い階だとモンスターは複数居て、雑魚しかいないのだが深い階───深階しんかいになればなるほどモンスターの数は少なくなり、一匹、一匹が強くなる。


 そしてここ、奈落35階ではモンスターは一匹だけ。だが、そこに待ち受けているのは、〈破壊級〉の陸灰燼鮹ダコイル。さっきの開闢樹人エントレンとは比べ物のならない魔物だ。


 コイツが外に出れば陸が壊滅となるだろう。そんなレベルだ。


「コイツは……やばいわね」


 キャルが冷や汗を流す。そう、一瞬としてわかったのだ。


 ───異次元、と。


「いくよっ!」


 フレアが、陸灰燼鮹ダコイルに向かって突進していく。


 そのスピードはとても速くて、それは閃光と化する。


「《閃撃》ッ!」


 瞬く間に陸灰燼鮹ダコイルの体に傷が出来ていく。だけど、それは全てかすり傷だった。


「キャル⁉ なにやってんの?!」


 キャルの方に目を配ると、そこには呆然と突っ立ているキャルが居た。


 しかし、フレアの声で我に返り、キャルも陸灰燼鮹ダコイルに向かって攻撃を始める。


 状況は優勢かと思われた。だが───


「グガアアアアアアアアアアアアアアアァァァッッッ!!!」


 陸灰燼鮹ダコイルの咆哮で状況は変わる。触手のスピードは増し、二人の傷が増える。


「うっ」「くっ」


 それでも、二人は怯まずに攻撃を続ける。


 やがては───

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