番外編,異世界にもハロウィンがやってきた ※二章までのネタバレあり

「がおー……嚙んじゃうぞ……」


 早朝、目が覚めるとそこにアメリが居た。アメリは如何にもドラキュラという恰好をしていて犬歯を剝き出しに見せている。手を首にやっていて吸血をしようという感じであった。


「……おいお前ら」


 視線をドアの方に向ける。隙間が少しだけ開いていた。そこに居るのは転移者組。俺に呼ばれて体がビクッとしていた。どうやら今日のアメリがおかしいのはコイツらのせいだな。


 転移者組───の女子陣だけが必死に私に近づいてきて説明をする。


「えと、あの、その……」


 一人の女子───果拿かなは身振り手振り説明しようとするが、語彙力が足りずあたふたしているだけだ。遂には説明できないとわかったからか、手を握り、大声をあげる。


「あの!ハロウィンなんです!」


 もちろん、私の頭は疑問が溢れていた。


 隣に居た賢そうなメガネ女子───学巳さとみがメガネクイッをして冷静に説明する。


「今日は、私達の世界で言うところのハロウィンという仮装をする行事なんです。仮装をしたものは家をまわってお菓子をくれなきゃイタズラしちゃうぞトリックオアトリートというとお菓子を貰えるんです」


 なるほど、だからアメリはこんな格好をしているのか。

 もう一度、アメリの方へ振り向く。


「……トリックオアトリートって言うんじゃないのか?」


 そういうと、アメリは気怠そうに私の胸に飛びつく。


「……そこまで説明されてなかった。……これ着て、だけしか……」


 ようはただのお人形になっただけか。


 私は起き上がり、転移者組とも一緒に下へ行く。すると、そこは仮装パーティーだった。


 リビングには、知尋ちひろ率いる女子陣が『想像創造ククララ』を使ってコスプレ衣装を作っていた。因みに金を払っているので完全に商売と言っていいだろう。


 なんなら外にいって売り出してるし。ほら、他の人もこれがなんなのか分かってないじゃん。


 あれ?なんか僕の家の前に知らない看板が……なになに?ハロウィンについて……異文化をここに教え込もうとしている……!


 あー子供たちも衣装着て家にトリックオアトリートって言ってるよ。完全に異文化を取り込んでるこの国。


 王はどうなってるんだ、王は!


 王宮に転移すると、カボチャのランタンやつたなどが飾り付けられ、過ぎ行く人たちも仮装していた。


 遅かった……

 王室に行くと王は仮装をしながら業務を行っていた。


「おまえ……」


 王に声をかけると王は私の存在に気づいたようで視線をこちらに向ける。


「ああ、お主が帝王を倒してくれてあ奴もだいぶ丸まったよ。ありがとう」

「いやそうじゃなくて……」


 僕は王の着ているフランケンシュタインの恰好を指さした。


「ああ、この格好の事か。お主らのところにいる勇者がハロウィン?という行事を宣伝してたようでな。国をあげて支援したのだ」

「なんで国で支援するんだよ!」


 道理でおかしいと思った。


 たった一日でこんなに国中がハロウィンをしているんだろうかって。コイツのせいか!


「なんだ?嫌なのか?」

「いや、別に嫌ってわけじゃねえけど」


 王は両手を広げて笑う。


「じゃあ、いいではないか。お主も共に楽しもう」


 はあ、もう何言ってもコイツらの頭はお花畑だな。まあ、それも平和ってことだろうけど。


 王に踵を返してまたトアノレスの家へと転移する。


 真っ白の視界が晴れて帰宅すると、ナイがアメリと一緒にメイドのコスプレなどのお人形にされてた。


「え、次?これを着るんです?でもこれって……わ、わかりました、着てみます」


 ナイは渡された服を<法>で今着ている服と取り換えた。

 それは、俗にいうバニーガールというものだった。


「こ、これ、露出が高くて……恥ずかしい、です……」


 アメリは無言。ナイは恥ずかしがっているものの、みんなに似合っていると言われ、嬉しそうだった。


「キャルって猫耳似合っているよね」


 ケルとキャルの方に視線を向けると、ケルは黒犬の恰好、キャルは金色の猫の恰好をしていた。ケルが言っていたように、キャルは猫耳がよく似合っていて ノルウェージャン・フォレスト・キャットのようだった。


「ケルも元々、犬になってたから似合ってると思うよ」

「僕の場合は未だにあの名残で一部分だけ犬になれるんだよね」


 ケルはキャルに手を見せるとそこに犬の毛皮が現れた。


「ほら」

「えーすごーい」


 キャッキャと二人は言い合っている。


「ケーラは仮装しないのか?」


 夕夜がケーラに話しかける。二人は未成年のくせにワインを飲みあっていた。


「別に僕はそういうのは似合わないと思うからね。それに夕夜こそ仮装はしないのかい?」

「僕もそこまでハロウィンの行事に興味はない。それに仮装すると女子たちがうるさいからね」


 両手を耳にやり塞ぐ仕草を取った。


「ハハハ、モテる男は辛いね」

「それは君にも言えることだろ?」


 ケーラは目を瞑り微笑み、告げる。


「どうだろうね?」


 曖昧な返事を。


 二人はワイングラスを回して飲みあっていた。あそこだけ大人な雰囲気すぎて未成年かどうかすら危うくなってくる。


 というより未成年ってワイン飲んでいいのかな?


 ***

 ───夜、トアノレスの家の庭───


 トアノレスで出来た家も飾り付けをして、今夜はパーティーなのだという。眼下にある街を覗くとそこにも飾り付けがされてあり、賑やかになっていた。


 どうやら転移者組は数日前から計画を立てていたらしい。しかも、秘密裡で。でも、心を読むアメリたちはとっくに気づいていたらしい。


 僕は滅多に心を読まないから気づかなかったけど。


「ということでー!」


 この企画を立てた首謀者(知尋)は、声をあげてトアノレスの家の玄関に立っていた。


「お化け屋敷だー!」


 そう高らかに声を上げるや否や、皆もそれに釣られてうおおおおという声をあげた。


 どうやら、肝試しをこのトアノレスの家でやるらしく、その準備の部屋も作ったそうだ。ほんとに準備万端だな。


 トアノレスの家は、私かアメリにしか改装ができないのだが、転移者組はアメリに頼んで部屋を作ってもらったらしい。


 どんどんとペアが作られトアノレスの家に入っていく。BGMもホラーっぽくてたまに女子の悲鳴などが聞こえる。


 私とアメリの番となり、トアノレスの部屋を歩いていく。私らは、恐怖などがないので、あまりリアクションに自信がないが大丈夫なのだろうか。


「ヴォオオオオオオオオ!」


 突然、前髪が長い女性が出てきても、私たちはまったく驚かなかった。

 すると、前髪の長い女性───知尋は前髪を後ろにやり、私達をジトッと睨んだ。


「ちょっと、クライシスさんたち!そこはもっと演技でもいいから驚いてください!」

「わーすっごい驚いたあ、アメリもびっくりしたよなあ」


 僕がアメリに視線を合わせるとアメリもコクコクと首を縦に振った。


「わざとらし」


 またジトッと睨まれてしまった。


 その後も、名演技(棒読み)を繰り返したが、何故か全員私達をジト目で見送った。


 肝試しも終わり、そろそろこの行事も終わるころ。

 お菓子を食べて皆もお開きになった。


 部屋へ戻り、ベッドに体を預ける。隣には、アメリが。


「今日は楽しかったか」


 隣にいるアメリは、なにも言わずにニコッと微笑んだ。普段なら、これで黙るのだが今日は違った。


「……すごい楽しかった」


 その一言に、違和感を感じるも、アメリが良いならそれでいいと、心の中で私は呟いた。

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