19ページ,皮肉の勇者

 ───三日目、早朝、キャル宅借部屋、ラーゼ・クライシス?───


 あまりにも楽しみすぎてこんなにも早く起きてしまった。


 それにしても、この星の太陽はもう昇っているみたいだな。全然暗くない。


 元気よくカーテンを開き、窓から太陽を覗いてみると、それは俺を燃やさんとばかりに目だけを焦がす。


 いてえ……普通に目が死んだ。瞬時再生!


 良い子のみんなは太陽直視するのはやめようね! すごく痛い! というよりここの太陽って赤いんだ。


 まあ、不幸な後には幸福はくるさ! 今までの経験上、そんな簡単にこないけどね! さあ、先に神山にでも向かうか。したいこともあるし。


「───『転移レザス』」


 めんどくさいし術式はかかない。最初の頃は勘を取り戻すために術式を描いていたが、その勘も、もう戻ってきたので術式は今後描かないだろう。


 ちなみに術式を描かずに<セレマ>を行う方法というのがあるのだが、それは殆ど<エーテル>で制御をすることだ。


セレマ>というのは魔法や聖法などの特別な技のことだ。


エーテル>は魔力や聖力などの特別な純粋なエネルギーで、身体などにも溢れる特別な力のことだ。


 でまあ、その<セレマ>なのだが<エーテル>だけで御するのは至難の業だ。


 例えるのなら、一人の天才人間が一つだけの<セレマ>を一生かけて鍛錬を積んだなら少しだけ、具体的に言うと3分の1ぐらい<エーテル>だけで<セレマ>を扱えるだろう。


 それだけ難しいということだ。それに、術式の他にも呪文を唱えないと<セレマ>を使えない奴もいるみたいだし。


「おや? もう来たのかい?」


「何時間も前からいたぞ」


 読者に向かって説明をしていながら神山に聖法をかけていたら、もうケーラがきたようだ。


「なんの聖法を使っているんだい?」


 俺は常に<エーテル>を使うときスキルを使い、周りに気づかれないように隠蔽をしている。


 そのことを見破られるとは、流石勇者といったとこか。


 多分こいつは無意識に色んな<エーテル>を使っている。そしてスキルも。だから隠し事は難しいだろう。といってもコイツに隠し事なんてすることは殆どないけどな。


「『物質硬質強化ザ・バラストライズ』だよ。物質を硬くする。だが、ゴリゴリ聖力が削られているがな」


「それは凄いね」


 何言ってんだか。《勇者》というのは莫大な魔力をもつ《魔王》と対になる莫大な聖力をもつ人物だ。


 そのうえ、《勇者》というのは必ずスキルに〈聖法粗方模倣マクロレルク〉をもっている。


 権能としてはだいたいの聖法を模倣できるスキルだ。


 昨日、調べた。こんな時だけ役に立つスキルだな。


(───『〈空間把握〉を手に入れました』)


 頭の中から。否、頭上から張る声が聞こえた。


「〈スキル〉を手に入れたのかい?」


「そのようだな」


 どうやら、ケーラにも聞こえたようだな。


 今の声は、<世界の管理者>の声だ。


 新たにスキルを手に入れたのだから報告をしてきたのだ。


 なんで〈空間把握〉を手に入れたのかというと『物質硬質強化ザ・バラストライズ』を使っているときに空間を意識しながら聖法を扱っていたからだ。


「さて」


 一泊を置いてケーラを見て、口を開く。


「じゃあするか?」


 トアノレスを棒状にしたものを召喚させ、ケーラに向かって構える。


 その俺の問いにケーラは「うん」と二つ返事で返す。


「『勇者聖剣召喚ガルラレアレアズ』」


 ケーラも俺と同じくし地面に向かって手をかざし、陣を描く。


 陣から光の柄が出ていきそれを掴み取ると剣の形が露わになる。


 剣は見事、純白に光り輝いていた。


「───《威風一閃剣いふういっせんけんムファスト・トライオレア》」


「いつからそんな代物を出せるようになったんだ?」


 少なくとも一昨日にはそんなことが出来る感じではなかった。


 であれば昨日か?


「これは今、思いついたっからやってみたんだよ。君がその装備をとりだすように、ね」


「……へえ~」


 ……これはたまげたな。歴代にこれほどの勇者としての素質があったものがいるのか?


 ポテンシャルだけだったら、神にも負けないかもな。


 俺? 俺なんかもともとポテンシャルなんか塵にも等しいのだから負けるどころか虐めのレベルだよ。虐め虐め。ケーラの存在自体が俺のポテンシャル虐めだよ(?)


 こうしている間にもケーラは集中力をたぎらせる。


 それは自分の体内だけではなく外にも影響をもたらす。


 徐々に地面がゴオォォォッッと音を鳴らし揺れてくる。地震かと錯覚するほどに。


 流石にこれだと、ここ以外にも被害を及ぼすかもしれない。


 そうすると多分、真っ先に俺が疑われる。主にキャルなどに。多分というより絶対だな。


 だから俺は『絶対範囲全遮断クロスシークレット』と〈幻覚錯覚思考ファラメージ〉を重ね崖をして安全を守る。主に自分の。


 ちなみに『絶対範囲全遮断クロスシークレット』は神山を範囲として、神山で起きている気配や影響を遮断して〈幻覚錯覚思考ファラメージ〉で見る人の錯覚を起こさせる。これで一安心。


「いくよ」


 いつの間にか髪が金髪へとなっていた。覚醒現象が起きたようだな。


 にしても、覚醒現象の理由が集中したって……どんな出鱈目チートだよ。


 ほんとに勇者って感じだな。


 ドゴオオッッン!と地面が音を鳴らし音速の速さでこちらへ向かってくる。それに対し俺はトアノレスを使わずに素手で立ち向かう。


 ケーラはその聖剣で俺を一閃しようとするがそれを間一髪で避ける。それは皮膚を滑らすギリギリを狙って。最小限の回避。これができるとできないとじゃ、後のスタミナに雲泥の差を引き起こす。


 そして避ける一歩と攻撃の一歩を同時にする。最善にして最速の一歩を踏み出し、聖剣のめがけて手刀を貫く。


 直ぐに聖剣の耐久は限界を達し、破壊する。


「そんなやわな聖剣じゃ、壊されてしまいだぞ?」


 ケーラは急いで後退し、俺との距離を開ける。


 まさかこんな早くに剣が壊されるとは思わなかったみたいだ。


 しかし、冷静に物事を整理して次の一手を考えていた。


「じゃあ次はこれだね」


 再び『勇者聖剣召喚ガルラレアレアズ』を発動し次の聖剣を取り出す。


 先の『勇者聖剣召喚ガルラレアレアズ』で聖力を使いすぎたのか、今のケーラが持っている聖剣は光っていなかった。


「また同じ結果になるぞ」


「それはどうかな」


 ニヤリと不敵に笑う。


 ヘラヘラ笑う小僧だ。なにも失敗から学んでないんじゃないか?


 その笑み、今すぐ壊してやるよ。


 今度は俺から向かう。そしてトアノレスを構え間合いに入ったその刹那だった。地面から物凄い勢いで棘が地面の中から出てきた。


 思わず身をひるがえす。なるほど、これが狙いだったか。


「お前が持っている剣は聖剣ではなく、その棘が聖剣だったのか」


 全く、聖剣というのはなんだろうか。全然、剣ではないじゃないか。でも、それだと聖剣が光っていなかった理由へと繋がるな。もっと注意深く見ればよかった。


「今の避けるとは、流石だね」


「そんな卑怯なり方、勇者らしくないぞ」


「スラムだと、どんな正攻法を使ったって馬鹿正直にやられるだけだからね。頭をちゃんと使うんだよ?」


 頭蓋を人差し指でトントンと叩き煽ってくる。


 ああ、もうキレちゃったよ。堪忍袋かんにんぶくろカッチーンだよ。血管ブチブチだよ。絶対ボコる。


 と、まあそんな器、っせえ行為は見せない。俺は器の広い人間なのだ。……多分きっとそうだ。


「じゃあ次はお前のIQ知性じゃなくて技量ぎりょうを見せてくれ」


 再び、ケーラのもとへと一直線に行き、トアノレスを薙ぐ。それに対しケーラは先程の剣で立ち打つ。


 棒と剣の打ち合い。通常なら棒が押し負け、壊れる。しかし、そんな通常などの常識は通じないこの生き物。そう簡単には壊れない。


 ギギギッと火花が散りばめられ、今にも木に火が移り燃えそうだ。


 否、もう火が燃え移っている。そのことに気づき、急ぎ目に『水浄化クラメ』を発動させる。


 すると火はみるみると小さくなり、やがて消滅した。


 よかった。間に合った。もう少し遅かったら結構まずいことになっていた。


「僕よりも、火が心配なのかい?」


「そんな、ヘラるんじゃねえって。ちゃんとお前のことも集中してるんだから」


 ケーラには二充分といっていいほどに集中している。一歩でも間違えたら大けがをするからな。


 俺とケーラは互いにのろける。そして、僕はニヤリとわらう。


「どうやらその剣も、ただのそこらにある剣じゃなさそうだな」


 やがて気づかれると思っていた、とそんな心情がうかがえる顔がえる。そんな勇者に、私は言葉を続ける。


「───魔剣だろ?」


 私の告げられた言葉に勇者はのほほんとした顔で微笑んだ───

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る