9ページ,樹海迷子

 ───二日目、昼、テンラルト樹海、ラーゼ・クライシス?───


「まったく……こんな樹海に入るなんてどうかしてるわ」


「いやあ……魔物が大量に居るかなって思ってここ選んだけど……ただ樹海が広がってるだけでなにもなかったな」


 キャルメルの愚痴に、そんな溜息を吐くように言葉を返すクライシス。木と木の間には弱く、小さい日光が道なき道を示していた。


 二人はこの樹海を2時間も歩き続けている。


 そう、俗にいう迷子だ。だが、キャルメルは別として、クライシスは決して方向音痴ではない。


 ではなぜ、この二人がこの樹海で迷子になっているかと言いうと───


 それは約3時間前に遡る


 ***

 ───3時間前、カイメルス王国支部冒険者ギルド、ラーゼ・クライシス?───


「えっ、クーちゃん、このクエストって……」


 クライシスが指を指したクエストは〈樹海捜査そうさ〉というクエストだった。


「ああ。なんか魔物が居そうだ。いい訓練になりそう。あと、クーちゃんって呼ぶのはやめろ」


 説明を忘れていたが、魔物というのは、大まかに2種類いて、一つは動物が魔素の瘴気にあてられ、魔物化するということ。これは魔動物化現象という。また、変異種モンスターともいう。この現象は主に森で起きる。


 もう一つは膨大な魔素が一ヶ所に集まり魔素が意識を持つようになり、そして細胞を形成する。その原因によって、魔物が現れる。この現象は魔物形成現象という。この現象は主に、迷宮ダンジョンで起こる。これは通称、純粋魔物モンスターという。


 同じ、モンスターと読むが、力は歴然として差がある。圧倒的に純粋魔物モンスターの方が強いのだ。


「全く、アタシも頭おかしいと思っていたけど、クーちゃんの方が頭おかしいよ」


 目を閉じ、額に手を当て、溜息を吐く。三連コンボだ。


「別にいいだろ。クエスト受けてさっさと準備して行くぞ」


 席を立ち、目で、外に行くぞと訴える。


 キャルメルは二度は突っ込んでくれないか、と残念に思いつつタブレットをシャットダウンする。そして、席を立ち僕に聞いてくる。


「で……クークーは行くときの用意する物、わかってんの?」


 ピタッ……と。その言葉を聞くと、その場で立ち止まる。


 そして、ギギギッとぎこちなくキャルメルの方を振り返る。


 首筋には一筋の冷や汗が。


「なにも知らないのね」


 分かりやすく目を泳がす。


 まるで、わざとらしく。


 キャルメルは溜息を吐き、俺の方へ歩き、肩をポンっと軽く叩く。


 やれやれと首を横に振る。


「じゃあ、お姉さんと一緒に武器屋とか服屋にいって準備しようか」


「そこのお店は行かなくても準備している」


 そっけなく肩に置かれた手を払う。


「えー行こうよー。お姉さん、クーちゃんにお着替えさせたいー!」


「それただのアンタの願望だろ!僕はお人形じゃない!」


 顔をクワッとさせ、男っぽく振る舞う。しかし


「そんな顔をいい感じ♪」


 その言葉を聞き、どうしようもないと思った僕はまた歩き出す。肉体的にはキャルメルと私の年齢は同じくらいのはずなんだが……。なんでアイツはお姉さん面してんだ?


「洋服屋行くのは、また今度だ。今は、お前の食料とか買いに行くぞ」


 そういえば自分の準備するものが無いということを今知ったクライシスは、キャルメルの買い物へと行こうと話を逸らす。


「じゃあさっさと準備してクエスト終わらせようかー」


 腕を空へ伸ばし、もう片方の手は伸ばした方の腕の肘を押さえる。


 何時間もかかりそうだな、と僕は心の中で悟るのだった。


 しかし、その予想を裏切るか如く一時間で買い物は終わり、今は樹海に向かっていた。


 意外と一時間で終わったな。女の子だからあっち行ったりこっち行ったりで凄い時間かかると思ってた。


 そして、結局俺が買ったのなんて、この一個だけだ。


 *

 〈幸運の靴下〉

 効果:運が少しだけ上がった気がする。

 *


 ……。商売の上手いお姉さんに買わされてしまった。効果も『気がする』ってなんだよ! これ買わされて運が上がった気なんてしねえよ!

 

 ステータスを見たとしてもいまいちわかる気がしないし、実際に運が上がったりするのかはよくわからない。


 逆にキャルメルの方を見る。


 凄くガチガチの、肌すら見えない軽鎧けいがいを着ている。


 こ、これがAランクか……


「貴方、そんなに軽装備で大丈夫なの?」


 たしかに、俺はそんな鎧なんて着ていない。なんなら、私服みたいな装備ではなくホントにただの私服だ。


 だが、別にこれでいい。


「この服は凄く硬いぞ?」


 ドやる。胸を張ってドやる。


「……」


「あれ?なんでそんな顔してんだよ」


 キャルメルを見てみるとジト目でこちらを見ていた。もうそれは侮蔑な目で。


「……」


「それ以上こちらを見るな。もう分かったから」


 それでも、やはり侮蔑の眼差しを向けてくる。もうよくない?


 それから、樹海につくまでずっとこっちを変な目で見てきた。


 ***

 ───30分後、テンラルト樹海、ラーゼ・クライシス?───


「ようやく着いたな。アサレル森林よりも遠かった」


「といっても、途中から走ってたから結構早かったけどね」


 息を荒げながらキャルメルは言う。


 途中から歩くなんて時間かかるし、面倒いから森の木々の上を転々として移動してきた。


 キャルメルもよく着いてきたなと思う。


「ホントッ……貴方、早すぎ。これだけで疲れる。しかも貴方、全然荒息してない」


「まあ……鍛え方が違うから」


「嘘ばっかり」


 この前とは違うボソッとじゃなく、ちゃんと普通の声量で話す。


 人がいないからですね。


「嘘じゃないんですね、それが」


「じゃあ入ろうか」


 あー俺の言葉は無視ですか。ほんと虫ですね。虫(?)


 キャルメルは俺の先頭を行く。そして、深く、暗い樹海に潜っていく。あー、これは……。


「あーそんなズカズカ行かん方がいいぞ」


「えっそれって、どういう───」


 ズガガガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア


 地面が変形し、その音が耳をつんざめく。そこからは、まるで蚯蚓みみずが飛び上がるように魔物が豪快に出てきた。


「キャアアアア‼‼‼‼‼‼‼」


 目などの人間にとって重要な部位が欠落している、大きな口しかないミミズ。樹海大型蚯蚓ガハラワーム。そりゃあもう災害級トラウマ級の見た目だ。


 僕たちの大事な思い出まで破壊しそうな見た目だ。ある意味、災害級だ。


「でけえな。だいぶ成長してるみたいだ。ありゃあウン百年生きとるぞ。僕たちの先輩だな」


「そんな悠長なこと言ってる場合⁉ 私達じゃあ、あんな魔物、勝てっこないよ⁉」


 うーん。僕的には勝てると思うけど。ワンパンだけど。でも、逃げてみるのも面白そうだ。


 ちなみに魔物にも、階級というのがある。元は人間が考えたんだけど、それが思いのほか神たちにウケちゃったからそのまま世界共通に採用されるようになった。


 *

 〈無視級〉例:F,Eランク魔物

 〈警戒級〉例:Dランク魔物

 〈討伐級〉例:Cランク魔物

 〈災害級〉例:Bランク魔物

 〈破壊級〉例:Aランク魔物

 〈滅亡級〉例:Sランク魔物

 〈神話級〉例:?ランク魔物

 *


 さっき言ったように、樹海大型蚯蚓ガハラワームは〈災害級〉。ざっと都市が軍を集めて討伐する魔物だ。


 そして走る。キャルメルの後に続いて走る。アイツは道、覚えてるんだろうか。見る限りスキルとか使ってなさそうだけど……。まいっか?


 ……迷子になりました。(テヘペロ)可愛いから許されると思う! ……多分? 外見はいいと思うから絵面的には整っているはずだ。


 いやさ、ちょっと言い訳させて? 僕がさ、魔物階級のことについて語っていたらさ、なにも考えなかったのよ。だから、脳死でキャルメルの後、付いていったらさ、ね? これだよ。どうやら、キャルメルは生粋の方向音痴らしく、彼女も彼女で帰り道を覚えていないってさ。帰り道までが遠足だよ? 迷子になったら、そこで、遠足は終了だ。いや、まだ諦めなければ試合は終了ではない。どこかの安〇先生だってそう言ってた! はず!


 え、言い訳が長い? ……飛ばしてよし!


「……歩きましょうか」


 ───そして、現在まで至る……

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