番外編,七夕だね(カクヨムオンリー)※本編とは関係ありません。二章までのネタバレが含むかもしれません。

「七夕だね!」


 朝、起きてすぐに私は皆に告げる。


「あれ?七夕って一昨日じゃあ....」


 疑問を含む顔でキャルは告げる。ケルも同じような顔をする。お似合いですね!

 すかさず、キャルの言葉を遮り、少しトーンが下がった声で言う。


「一昨日が七夕って知ったの今日なんだよ、間に合わなかったんだよ。察せ」

「ハイワカリマシタ」


 機械のように返事をさせる。よし。


「でも、なにをやるの?」


 テコテコと近づき、僕の袖を引っ張ってコテッと頭をかしげる。

 コイツ....!ぜってえ、わざとやってんだろ!そのあざとさ!


 でも、そんなことを思わせないように無表情を貫く。生憎あいにく、こういうのは得意なんだよ!


「もちろん、笹にお願い事を書くんだよ!」


 ボクがそう告げると、日本の転移者たちはパアッと顔を明るくする。でも、それに比例して元々ここに居た人たちは疑問の顔を強くする。


「七夕....?....!あれか」


 必死に記憶を巡らせ、ようやく思い出せたようだ。褒美にアメリの顔を撫でる。


「....皆、居る。後で?やって」


 と不服そうな言い方をしても、体は正直ってもんだ。嬉しがってるな。


 さらに続けるも、横から漆黒しっこくにして桎梏しっこくの短刀が首に襲い掛かるが───弾き飛ばす。だが、それでも折れない。流石、限りなく神器に近い人器だな。


「ッチ」


 小さな舌打ちが聞こえる。地面に落ちた短刀が、ねこ 新真しんまの手元へ吸い取るように戻り、流れる仕草で短刀をさやにしまう。


「なんだ?嫉妬したか?」

「違う。お前がさっさと物事を進めないから殺せる隙ができたと思ったまで。お前らがイチャイチャすると周りの空気が冷めるんだよ。羨ましいなんて一つも思ったことが無い」


 素直じゃないんだからなあ....


「じゃあ、やっちゃいますか」


 分からない奴にもしっかり説明する。理解できたかな?


 ***


「えーっと、そこは、これを飾るかな」


 舞台は順調に進んでいた。笹はこれで完成が近くになり、あとに残っている作業は、短冊作りだけだ。


「紙がないけど、どうするー?」

「あーえっとー待っててな。『物質移動変換ルルビエル・ラルル』」


 素早く、焼ききれそうな頭の回転で聖法を操る。

 多分、制御だったらこの聖法が一番かもしれない。いや、それはないか。


 机の上に紙を作り出し、マジックかのような仕草を取る。だが、拍手してくれたのはアメリだけだったようだ。

 なぜだろうか?


 ***


「「「「「「「かんせーい‼‼」」」」」」」


 笹の植物のした。みんなで手を掲げて、喜びの合図を打つ。

 後は、短冊に願いを書くだけだ。次々に流れるように一人一人が短冊に願いを書く。


 新真も短冊に願いを書いているだと⁉

 一体、どんな願いを書いているのだろうか....殴られた。


 え?デリカシーがない?そうなのだろうか....アメリが慰めてくれた。配慮なんかいらないよ(泣)


 あとはドンチャの大騒ぎ。みんながサール(酒紛い)を飲む。あれの美味さって未だに俺は分からない。でも、アメリが凄い勢いで飲んでいる。


 さて、と。俺は、人ごみに姿を消して、笹の方へ歩き出す。

 さあさあ、皆が書いた願いはなんだろうな?


『金が、有り余るほど欲しい!』


『欲しいものを好きな時に欲しい!』


『どんな分野でもいいから、世界一になりたい!』


 皆、各々の願いが込められている。望みが強いな。


 ───ふと、ある二つの短冊が目に入る。並んでいて、風によってなびいている。


『二人一緒に』

『幸せに生きたい』


 ....お幸せに。

 さて、アメリは?


『なにも、変わりませんように』


 なにか、ある隠された意図があるような感じがする。

 でも、俺も、今はそう思っているからな。なんとなくだけど、分かると思う。


 急に、風が吹き荒れる。短冊が飛ばないか心配したが、取れたのは一枚だけだった。


 よかったと思いつつ、その短冊を取る。

 見ると、それは新真の願いであった。綺麗な、丁寧な字で、こう書かれていた。


『皆が、健やかに。幸福に暮らせますように』


 アイツ、神は信じない癖に。こんなこと書きやがって。泣けてくるな。

 でも、それと裏腹に私の体はなにも反応を起こさない。


完全浮翔操作ディスパレス』で宙に浮き、短冊を笹に再度付ける。


「なにをしている?」


 音もなく、風も響かず、新真は後ろに居た。


「上達したな。気づかなかったぞ」

「嘘つきめ。〈読心術〉で、俺がここに着いた時からお前が知っていたことを俺は熟知している。で?なにをしていた?」


 私は、新真に近づき手を新真の肩に置く。


「お前はホントに頭が硬いな。そうしていると女の子は近寄ってこないよ?」

「嘘つき野郎、それは余計なお世話だ」


 新真に一瞥いちべつをし、ここから立ち去る。

 その際に、一言。


「俺は、もう帰るとするよ、よい七夕を」


 ***


 俺こと、新真は去り行くクライシスを見てなにかの溜息を思わず零した。


 あの嘘つき野郎は、俺の中で唯一、恐ろしいと思っている要注意人物だ。


 あの目は、優しさで満ちているが、それとは裏腹に虚空に染まっている。


 底が見えない。


 一度、背中が見えたと思うと、また果てしなく遠くなる。


 一生、追いつけない。そう、本能で感じ取る。


 そういえば、アイツの願い....

 横を見ると、随分と目立つところに嘘つき野郎の短冊があった。


 願いは『大事な玩具が壊れませんように』と書かれていた。

 俺は、それを見て、背中に冷や汗がツーと流れる。


 "玩具"。その言葉は、とてつもなく冷たく感じた。一体、なんだというのか。


 まさか....俺たち....?....いや、それはありえない。....とも言えないというのが現状だ。


 あの嘘つき野郎は、なにを考えているのか、わからない。


 表面上だけの考えなら〈読心術〉で読める。


 だが、それは表面上のことだけ。うわっ面の事実だけが見えるだけで、根本的になにを思っているのか、分からない。


閉心術へいしんじゅつ〉、という心を読ませないスキルがある。嘘つき野郎は、そのスキルのレベルが高いのか、それともそれ以上の上位スキルを持っている。


 ....あいつには、まだ敵わないな。そう、考えを示し、また夜空の月光の下、俺は一人歩くのだった。

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