8ページ,職業

───二日目、日中、カイメルス王国支部冒険者ギルド、ラーゼ・クライシス?───


「そういえばあんたの名前ってなんだ?」


 彼女の事をどう言えばよかったのか気になったので聞いてみる。


「私?」


「あんた以外に誰がいるんだ」


「ん~、えーっとね」「はよせい」


 頬に人差し指を置き、悩む。なにかとコイツは仕草からしてギャルっぽい。


 なんか髪の毛も黄色だし、まるで髪染めてるJKだな。昨日は、多くの人が彼女に注目していたのか、それとも仕事中だったからか、真面目な印象だった。


 だけど、そんな印象は今の彼女を見るにふしだらなイメージの方が強くなっている。


 キャルメルは私の指摘を受けてから気怠そうに答える。


「私の名前は、キャルメル。キャルメル・ファストだよ。クライシスは特別にキャーちゃんって呼んでもいい権利をあげるわっ」


「別にそんな権利いらんわ」


 キャルメルはあれか? 自分が強いからって女王様気取りでもしてんのか? いや、何度もこういうところは見た。ギャル特有のやつだ。


「ちなみにクライシスって名前は少し……嫌いだ。というより不愉快だ。クー、とでも呼んでくれ。」


「なによそれ。親に付けてもらった名前じゃないの?」


 頬を少しだけ膨らませ赤らせる。こういうところも凄くギャルっぽいです。絵になる。タイプではないが。


「人によっては知られたくない情報もあるんだよ」


 「へー」と横目にジト目で見つめてくる。そしてなにを言っても無駄だと気付いたのか、目を閉じ、溜息を僕にも耳をかすめればやっと聞こえてくる程度に吐き、再度目を開ける。


「さあ、もう朝のお茶会はいいからさっさとクエスト進めないとじゃない?」


「それもそうだな」


 彼女はそう言うと、僕も同意する。そして、事前に持っていたタブレットを開く。このタブレットで、クエストを受け、受付嬢が受理すれば無事にクエストに行ける。


 近代的だな。文明も進んでいる。


「便利だな。これ」


 キャルメルのタブレットを見ながら言う。


「でしょ?でも、受付嬢側は、大変なのよ。クエストを受ける人が多ければ多いほどこっちは忙しくなるんだよ。しかも、タブレット端末の金額のこともあるからほんと大変ッ」


 片方だけ頬をむーっと膨らせてくる。あざといなー。でもキャルメルの場合は無意識にやってんだろうな。まあ仕方ないか。ギャルだし。


「そういえば、キャルメルの職業はなんだ?」


 タブレットを立ち上げるのはもう少し時間がかかる為、少しだけ話題を進めてみる。


 職業はみんな生まれながらもっている役割だ。職は自分の職に合うスキルを手に入りやすくなる。その職限定のスキルだってあるものだ。


 しかし、職業が目に見えるようになるのは6歳からだ。その理由としてなんだが職業は〈神官〉という職業を持っている者と自身のステータスプレートでしか見れないのだ。


 そして、ステータスプレートが見えるようになるのは、人によるがだいたい10~17歳だ。それなら〈神官〉に見てもらう方が早い。


 少々長くなるので詳しく言わないが、ステータスプレートは一定数の<エーテル>を超えるとなんの代償もなくステータスプレートが見えるようになる。


 僕はもともとエーテル量が他の人よりも多いからだから、ここに存在した時からステータスプレートを使えた。


「私の職業は〈戦豪〉よ」


 キャルメルは隠すこともせずにあっけらかんと言った。噓発見器みたいなスキルを使っても意味はないだろう。その理由は明白だ。


「そりゃ凄いな」


 スキルもそうだが、職業もくらいというのがある。詳しく言うと───


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

〈初級〉

〈中級〉

〈上級〉

奥級おうきゅう

〈聖・魔級〉

〈王級〉

皇級こうきゅう

〈神級〉

〈極致級〉

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 もちろん、例外の〈特別級〉や〈極致級きょくちきゅう〉と文字が同じの〈極地級きょくちきゅう〉がある。まあこれは例外中の例外だから、あんまし覚えなくてもいいかも。


 そして、〈戦豪〉は〈戦士〉の奥級職だ。


 凄い。その一言に限る。理由は、その若さだ。一般だと一生かけてようやく上級職になるといわれているのに、キャルメルは見た目15歳だ。なのに、最上級。バケモンと言われてもいいだろう。


 いや、それよりもゴリr……なんでもありません。声も出していないのにキャルメルはこちらを睨んできた。いやはや、これだから女性の勘というのは怖いのだ。


 キャルメルはこちらを見つめて数秒。視線を外すや否や溜息を吐いた。そして、再度こっちに視線を合わせて口を開く。


「そういえば、貴方の職業は?」


「……無職ニートだ」


 無職ニートはその言葉とおり職がないということだ。だが、俺的にはこっちの方がスキルが手に入りやすくなると思うからこれでいいと思ってる。


 しかし、世の中はそう甘くはない。


「ぷぷっ。えっ、まって。あんたニートなの(笑)えっ、やっば」


 キャルメルは口を押え馬鹿にするようにこちらを見て、そして笑い声を抑えている。あと(笑)をつけるな。


 嘘言えばよかったかな。めっちゃ馬鹿にされるわ。でも、いずれかは分かる。職業というのはあくまで指標ということを。


 あんまり職業は当てにならないのだ。それは、強者になればなるほど。


「でも僕はキャルメルより強いから」


 そんな反論を加える。キャルメルは顔をしかめ、こっちに更に反論しようとするが、そこでタブレットから、ピコンっと音がしたため押し黙った。タブレットが立ち上がったみたいだ。


 タンッタンと軽快に指を動かし、クエストが表示されるアプリが開かれる。


「へーこんなにクエストあるんだな」


 タブレットを覗き込み言葉を発する。


 見るとそこには、ざっと100個くらいのクエストがざらっとある。


「私はAランクだから基本は全部選べるけど、どれにする?」


 流石Aランク。


「んーそうだな」


 俺は、スキルを発動させ、クエストを選ぶ。ふと、あるクエストが目に留まる。


「ストップ」


 キャルメルは指をとめ、僕はそのクエストに指をさす。


「これにする」


 そのクエストは───


 ***

 ───同時刻、???国、皇宮、??????───


「なぜだっ! なぜ亜種竜ワイバーンを用意したのにそれがやられている!」


 若く、黒いフードを纏った男は荒声をあげ、側近に怒鳴りつける。


「も、申し訳ありません陛下。直ちに別の策を。速急に」


 怒鳴りつけた男とは違う黒いフードを纏った側近は頭を下げ、男に謝る。


「っち、もう下がれ!」


 無駄にデカい舌打ちをする。側近は音もなく真っ暗な部屋から去っていく。


 一人になった男は罰が悪そうに呟く。


「さて……どうやってあの国を壊せるのか……」


 チラリと横を見ると、そこには黄色い首飾りが光りだす。この真っ暗な部屋に、間違いを正すかのように輝いていた。それを見ると、男も少しだけ心が休まる。


 暫く一人で考えていると、部屋の中から音もなく男の隣に女が現れる。光をも吸収されそうな真っ蒼のローブを着た女だ。


「音もなく俺の隣にくるなとあれほど言っただろう」


 そんな男の言葉を無視し、女は静謐な言葉を発す。


「"あれ"の準備ができた」


 男は、ハッとした顔になり、ようやくか。と言いニヤリと笑う。


「よし、早速行くぞ。我らの目標の為に」


「でも、最近ワイバーンが倒されたと聞いた。準備は慎重にしないといけない」


「そうだな。じゃあどこに仕込むとするか」


 癖のように顎へ手をあて考える男。


 そこへ、提案を提示する女。


「……多分、迷宮ダンジョンに放り込めばいい。あそこなら強い冒険者を潰せていい。それに、あれなら低い階層に設置しとけば、勝手に壊して国に侵入する」


 男はそんな女の発言に、なるほど、と言う。それは、なんとも神妙な顔つきだ。


「わかった。確かにそれだと成功する可能性は高そうだな」


 同意する男に女は興味が無さそうに「はい」とだけ言う。


「じゃあ───目指すは迷宮ダンジョンだ───」

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