7ページ,翌日の存在

───二日目、朝、カイメルス王国街中、ラーゼ・クライシス?───


 結局寝ることはなく燃やす日が俺を焦がす。そんな朝がきたのだが、僕は冒険者ギルドへ行く前に、あるところに向かっていた。


 前を向くとそこには巨大な門がそびえ立つ。王宮だ。門の前まで行くと、そこに居た使用人がペコッとお辞儀をした。


「こんにちは」


 僕は挨拶を返す。初老の使用人はお辞儀をしながらマッスルで門を開ける。流石、といったところか?


 王宮に入ると、中はどんよりとした雰囲気が漂ってきた。空気が湿っており、どこか薄暗い。


 どうしたんだ? 前まではもっと活気づいていたのに。この豪華な装飾も暗く見えてしまう。そんな王宮の廊下を、眺めながら歩く。そして、冒険者ギルドのことを思い出す。


 今までの異変。それはこの国では不思議な事。<ソース>も充満していないこの国で強い存在が生まれることはない。


 暫く歩いていたが、もしかしたらあれのことなのかもな。


 立派な廊下を見定めていると、前の方から聖騎士団長のカムトリエさんが鎧をしょって歩いてきた。豊満な胸元を揺らす。この前は鎧で見えなかったが、ありゃ別の意味でバケモンだな。


「おや? クライシス殿。此度こたびはどの様な用件で?」


 稽古をしていたのか、床に汗が数滴、したたる。


 オタクさんたちが喜びそう!ありがとうございます(意味深)


「今日は王に少し伝えたいことがあってね」


 なるべく優しい口調で話す。カムトリエさんは黒髪の長髪を揺らし、ニマっと笑う。


「そうですか!ではゆっくりと話してくださってくれ」


「そうするよ」

 

 カムトリエさんとすれ違う。ほのかな花の甘い香りがした。でも、そこには何か迷いがある。足取りもどこか不安定である。


 多分モテるな。あの感じだと。しかし鈍感そうだなあ。あの人。


 僕はそう結論付けた。


 その後も歩き続けたが、王室まで途方も暮れる! 遠い! よし。『転移レザス』を使おう。


 白く淡い光が僕を包み、やがて見えたのは王室だった。


 王は机に向かって頭に手を当て、うーんうーんと首を唸り、何かを考えていた。


 なにか気の利いた言葉一つかけてやればいいが、生憎そんなことを言っても、この状況だと皮肉にしか聞こえないだろう。


 これだから僕は空気が読めないと、いつまでも言われるのだろうか?


 私はちょっとだけ悪戯をする。息を大きく吸い、それを一気に音として吐き出す。


「おい!!!!!!!!!」


 思惑通り、王はビクッと体を揺さぶり驚いていた。


「なんだクライシスか。驚かさないでくれ」


 はあ。と安堵のため息を吐く王。そんな王に一言掛ける。


「あんたが随分と疲れていたみたいだったからな。驚かしてやった。それに、あんたのせいで、この立派な屋敷も、雰囲気が暗くなっているぞ」


 王は少し驚いたような顔をしたが、やがて自嘲気味に嗤う。


「ははは。それなら少し笑わないとな。この先代から譲り受けた立派な王宮も宝の持ち腐れになってしまうな」


「まあそんなのはどうでもいい。今日は別のことがあってきたんだ。」


「どうでもいい、か。で? 他になにか用とは?」


 苦笑いだったが、急に真剣な表情になる王様。なんだかコイツ王様に見えないなと思ったのに急に仕事モードになりやがった。


「あんたの言う通り。あんたも大分疲れているようだが、あんたらにとっては大事になるからな」


 一拍置いて言う。


「……実は、『魔王』が生まれた可能性がある……いや、もう絶対として生まれている。まだ、胎児の可能性もあるがな」


 王は今日一番、虚を突かれた顔をする。


「いやはや……いや、なるほどな納得がいく」


「どうしてだ?」


 王は少し姿勢を正し、話す。


「いや、な。最近魔物の動きが激しくなってきてだな。不可解に思っていたのだ。だが、なるほど。魔王ともなれば納得だ」


 うんうんと頷き、自身で納得する。だが、『魔王』という存在は、魔物が活性化させる。魔物とは、主人に奉公するのが性にあう生き物だ。だから、主人魔王に奉公するためにはその命でさえも躊躇わない。そういう存在だ。


 しかし王は疑問の顔を浮かべ、僕に尋ねてくる。


「しかし、なぜそれをクライシスが知っておるのだ? そんなスキルや<セレマ>があるなんて余は知らないが……」


 やべっ。勇者のことはなるべく知られたくないし。なにしろ彼にも迷惑だ。両者メリットがないから喋る必要はないだろう。


 それに、俺が面倒だ。


 なになに? その理由が殆どだって?


(当たり前じゃないか)


 私は今日一番大きな声を心の中でした。


「えーとね……あれだよあれ……」


 軽く苦笑いする。すると王がふっと笑った。


「なにも詮索する理由はない。にしても、クライシスにも分かりやすい一面もあるもんなんだな」


「はは……」


 これで王目線からは僕が分かりやすい人間だと思ったはずだ。こうやって印象操作ってしていくんですね。はい。


 まあ、伝えたいことも伝えた。でも他にも、なにか事件があるようだ。


 だから、俺は言葉を発す。


「なにか敵国と進展があったのか?」


 再度、王はふっと笑う。


「流石だな。そんなことまで分かってしまうのか」


「前観光したときに少し、都市の警備が強くなってきたような気がした。それに、この世界の地図を見てみたんだが、この国はだいぶ、領土の広い帝国とその味方に囲まれているようだな。さぞかし情勢が苦労しそうだ」

 

 「そういえば」と付け足し意味ありげに笑う。

 

「ここに近い森は今まで、ワイバーンが出た事例なんてないそうじゃないか。これも、もしかして……」


 それに何か気づいた王はハッとする。


「まさか……」


 冷や汗を垂らし、ほぼ確信に迫った顔をする。


「まあ伝えたいことはこれだけだな。あとは、任せるよ。ああ、後、何か困ったら何でも言えよ。なにか不注意でもしない限り、手は貸してやるよ」


 俺は踵を返し、王に背中を見せ、この場を後にする。


 王は背中を向けた俺を見て話す。


「ああ……その言葉を聞けて安心したが、そのことはできるだけないようにするとしよう」


 背中越しに俺は伝う。


「そうしてくれるとこちらとしても助かる。あまり、面倒事は嫌いだ」


 僕はそのまま転移し、王宮の門に出る。マッスル使用人さんが、待ち構えていた。まるで、俺がくると思ってたように。ほんと何者なんですかね。この人。もしかして……いや、深読みはやめておこう。


 さっさと冒険者ギルドでもいこう。あの人も待ってるかもだし。


 そういえば、あの迷宮姫プリンセスのことを夜の内に調べてみた。


 二年前から噂が立っている人物で、存在してはいるが、誰もその姿を見たことがないという人物だ。最初に証拠を発見したのは、三年前。Cランク冒険者が迷宮ダンジョンにてBランク指定の魔物、狂闘牛人ミノタウロスを単独の剣士らしき者が討伐した死体を発見されたのが、始まりだ。その後も、同じ切傷で倒された魔物の目撃が大量発生したため、冒険者ギルドでは、正体不明のその冒険者を迷宮姫プリンセスの異名を与え、捜索している。とのことだった。


 といっても、昨日のあのギルドマスターと受付嬢さんのやり取りをきいていてみたが、どうやらギルド側ではそのことを把握しているみたいだった。だが、そのことを、もとから知っていたのはギルドマスターだけであった可能性もある。受付嬢さんが自分のことを迷宮姫プリンセスと名乗ったあの時に私は他の受付嬢さんのことを見てなかったから、わからないな。


 そのことも後で聞いてみるか。


 そんな考察を考えていると冒険者ギルドへ着く。


 〈トアノレス〉で仮面を作り、装着する。


 扉を開け、「ただいまー」と言い冒険者ギルドへ入ると、視線が僕へと集まる。


 僕の言葉に周りは変な奴を見るような目で見てくる。


 やめてよ。そんな目で見ないでよ。僕変な事した?(自覚無し)


 僕は、周りの目なんか気にせずにトコトコと目の前で椅子に座ってコーヒーを飲んでいる、僕とは違った変な目で見られてる彼女へ言葉をかける。


「ここって自動販売機あったけ」


「そこに小さいけどあるわ」


 そっけなく元受付嬢は流す。


「あ、じゃあ僕も飲も」


 すぐそこにある自動販売機へ行き、桃のジュースを選び、また彼女の席に戻り椅子に腰かける。


「貴方ってそんな子供みたいなジュース選ぶのね」


「子供で何が悪い。こちとら、まだ生後一日やぞ」


 そんな反駁はんばくをする。実際に事実なので異論は認めない。


「(嘘ばっかり)」


 彼女は僕以外には聞こえないような声量で発する。


「おい。聞こえてんぞ。あと事実だ」


 すると今度は普通の声量で話す。


「貴方のせいでねー。朝から私は周りから変な目で見られてんの。もうっ、最悪」


 そんな嫌味を言う。でも、そんなこと僕に言われても僕の心には刺さりません。むしろ開き直る。


「僕といるだけで変な目で大丈夫だ」


「なに開き直ってんの⁉ あと大丈夫じゃない!」


 朝からそんな茶番を繰り返す。


 どうやら距離は縮まったようだな。

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