3ページ,滅亡級の生き物?

───同刻、カイメルス王国王宮、カイメルス国王───


 ────こやつが余の前から現れたとき、クライシスと名乗る者は、脆弱な人間だと思っていた。こやつが単独でブルーワイバーンを倒したのが、心底信じられなかった。


 見た目は15歳くらいの女子おなごだ。そしてその女子がブルーワイバーンをワンパンだというのだ。尚更、信じられない。


 そもそも、ブルーワイバーンは我が国の勢力でも殺しきれるかが危うい、そんな存在だ。

 

しかし、それは余が言葉を放ったその刹那に確信へと変わる。


 言葉でも言い表すことができないほどの強風と見間違うが如く、一撃で我らを葬る覇気が我らを襲った。この覇気はスキルや<エーテル>の類ではない。

 

 昔、余は東の国へ行ったとき、その地域ならではの<エーテル>を見た。当方では色々な系統の<エーテル>があり、そこではそれを『闘気オーラ』や『氣』などと呼んでいた。

 

 それ以外にも、多彩な国々を見てきた。


 だが、その見てきたどんな<エーテル>でもこやつが放った覇気は違った。そもそも、覇気というのは、簡潔に言えば威力。勢いがある不思議な力のことだ。


 そんな、不思議の力で、悪魔が放った禍々しい魔法のような天使の包み込む神聖力のような──そう、混沌の覇気を生み出していた。


 誰にも上書きができない。そう悟る。


 そんな覇気に我らが対抗できるはずもなく、貴族の者たちは吹き飛ばされ、そのまま壁にめり込む奴も少なくはない。


 余は昔は、冒険者でAランク代表をしていたのでこのぐらいの覇気はなんとかギリギリ耐えれるが、果たして他の者たちは耐えられるのか。


 否、耐えれるわけがない。余が吹きとばされそうなのだ。他の者なんて虫の息だ。


「ク、クライシスよ! どうかその覇気を抑えてくれたまえ!」


 こんなので静まるといいのだが……


 そんなことを思考した瞬間、辺りが元に戻り、先程あった覇気の重量感もなくなっていた。


 まさか、覇気が収まったのか?

 余は目を塞いでいた腕をどけてクライシスを見る。


 クライシスは溜息を吐く。そして閉ざされた口を開く。


「まあ俺の方も少し頭を冷やす必要があるかもな───だが、俺の詮索はするな。少しでもしたら、さっきと同じことをする」


 そんな脅しの言葉を言う。が、そんなことを言いながらクライシスは吹き飛ばされた貴族を、念力で移動させ、全員を回復。覇気が収まってからというもの、全てが元通りになった。


 そして───


「帰っていいか? もうここにいる必要はない」


 クライシスがここを立ち去ろうとする。だが、まだ話したいことがある。そう考えた余は自然と声を張り上げていた。


「ま、待ってくれ! まだ話したいことがある」


「なんだ?」


 余の声に、クライシスが明らか少し不機嫌な顔をしてこちらを振り返る。


「ブルーワイバーンを倒したのだ。こちらも少し褒美をくれなくては示しがつかん」


 そんなことを言い、最低限の威厳を保とうとする。

 クライシスは少し顎に手を置き、考えた。


「……そうだな。じゃあいつでも王宮を訪れてもいい権利が欲しい」


 思考した末に、クライシスはそんな短絡的な返事を返した。まあこちらとしてはそのくらい造作もない。しかし、それだけでは何かと不安になってしまう。


 そんなものでいいのか、と。


「そんなものでいいのか?」


 他のものでもいいぞ? という意味を込めて言った。しかしクライシスは───


「ああ、それでいい」


 遠慮して言ったのか。そうだというのなら余は少しだけ提案をクライシスに言う。


「それなら、王宮に住まないか?」


 奴にとってはこの豪華なところに住むのだ。しかも設備も金も警備も全て揃っている。メリットしかないはずだ。だが───


「断る」


 端的に奴は、そう一蹴した。

 何故だ? と聞こうと思ったが


「もう帰る。じゃあな」


 もう他になにも語ることはない。そう視線で言い、シュン。と何処かに消え去ってしまった。

 

 ……余はため息を吐く。嵐のような者であった。そんなある種の偶像的ぐうぞうてきな感想を心の中で呟く。


 でも、最後の方は随分と機嫌を損ねさせてしまったようだ。今度来たときは盛大に祝おう。そうでもしないと駄目だ。あれは動く自然災害だ。その気になれば一晩で国が滅ぶ予感がする。


 余の予感は当たるのだ。


「ラージュ、の者を滅亡級に指定させろ」


 余は、隣にいる側近にそう告げる。


「直ぐに部下へ告げます」


 側近も察したのだろう。あれは人間ではない。

 ハア……もう一度、今度は心の中で強くため息を吐く。


 一体、奴は何者なのだろう。……今の段階で分かっているとこといったら


 最後の奴が消えた魔法。それは『空間王級聖法』『転移レザス』だろう。まだ人間と神が接触していた神代の時代に失われた魔法だ。一体どこでその魔法を覚えたのだろう。


 そして分かっているものとしたらそれだけだ。


 謎だらけだ。もっと考察したいのだが───いや、今考えたところで、だ。なにも意味がない。


 でも、余になにかできるのはあるのだろうか。……無理、だろうな。あやつならなんでもできそうだ。


 そう考えていると、先程とは別の側近が慌ててドアを開け、ハア、ハア、と息を荒げながらこう述べた。


「大変です。王よ」


 周りの貴族たちが微小にざわつく。なにかあったのかすぐさま聞く。


「なにがあった?いや、ここでは他の貴族も多かろう。違う部屋へ移ろう。貴族の皆もすまなかった。今回は、どうか無事に帰ってくれ」

 

 余は貴族たちに謝罪した後、豪華な玉座から降り、違う部屋へ移る。


 違う部屋へ行くと側近は言いにくそうにゴニョニョとしばらく口を濁ませたが、やがて口を開ける。


「あの、それが───」


 ……なるほどな。側近からだいぶ話を聞いた。


 あやつめ。ついにこちらまでも、か。あそこを取ったくせにまだ満足いかぬのか。

 しかたない。今度こそあやつをとっちめてやろう。


 全く、こんなことなどクライシスに頼んでさっさと終わらせたい。

 今度、クライシスが来た時に頼めばよかろうか。


 あやつは一体何をしているのだろうか───?

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