4ページ,冒険者登録

 ───昼、カイメルス王国街中まちなか、ラーゼ・クライシス?───



 王宮から出た僕は、ある場所へ向かっていた。この綺麗な都市を観光しながら。


 最近は、この国の警備も強くなってきた気がする。これは……確認する必要があるかもだな。


 それにしてもこの都市は、すごく綺麗だ。思わず見惚れてしまう。


 こんなにも技術が発展しているにも関わらず、空気が澄んでいて、とても気持ちがいい。これも聖術の影響だろう。あと、あの王様も一応関わっているのかな? それだったら感謝しなければな。


 私は、綺麗なものは大好きだ。人に限ったものではない。自然でも。未知のものでも。


 美しい『美』なるものだったらどれでもいい。


 逆に醜いものが嫌いということでもない。

 醜さがあっても、それは一種の「美」なのだ。


 ───だから私は醜いというのが嫌いということではない。決して。


 そんな自分の誰も得しないであろう美学を語っていると、目の前にいる人が猛然と走ってくる。


 「誰か! そいつを止めてくれ! ひったくりだ!」


 どこからかしたそんな声が木霊する。


 よく見れば、黒いフードを被った男が豪華な宝石を持って、都市を『身体強化ガザム』で走っている。


 これは見逃せんな。僕の目の前に過ぎ去ろうとする、男の首根っこを掴んで『可視化力拘束ガギャマルード』で拘束する。


 すると直ぐに騎士がやってくる。


 「すいません。ご協力ありがとうございます」


 「いえいえ」


 男は「フー、フー」と。どこか、息が荒い。


 何故か、この男はおかしいところがある。もしかして。


 私はこっそりと立ち去ろうとする仕草をしながら、とある<セレマ>を使った。


 ……やはりな。これは明日、王宮に行かないとだな。


 気持ちを切り替え、また歩き出すとすぐそこに冒険者ギルドがあった。


 「《トアノレス》『複製』『仮面ラルバ状態モード』」


 僕がそう唱えると俺の掌に仮面が出てくる。

 俺は仮面を装着し、準備が整う。


 さーて楽しみだ。そんな期待を膨らませ、ドアを開ける。すると同時に大きな声が私の耳を打つ。


「よ……よ、ようこそ!冒険者ギルドへ!」


 元気な受付嬢が俺を呼んだ。それと同時に俺を睨む、殺気の眼差しが俺を包み込んだ。


 そんな視線が気になった僕は、周りに視線を配る。もちろんのこと、その視線は鋭い。そして、そのどれもが私に突き刺さる。


 右を見ればどこかの20XX年にいそうな禿げのオジサンが。右を見れば厳つい棘の肩パットしているオジサンが。どれもが殺気を向けている。

 

 いやー世も末だな。まさかこんな冒険者ギルドが治安悪いとは。新人いびりかな?


 まあ……俺に殺気を向けた奴はちょっと痛い目に合わせないとな。


 だが、その輩どもは私の全身の姿を確認した瞬間にピタリと体を静止する。なにせ、私の容姿はなかなか整ってるからだと思う。


 まだなにも輩どもはしていないので、これで許してもいいのだろう。しかし、相手は自分よりも優位だと思っているだろう。舐められるのは屈辱的だ。


 決めた。どっちが上か分からせてやらないとな。


 そう思い、僕は俺に殺気を向けた奴だけに威圧をかける。


 威圧っていうのは王にやった覇気とは違って、押しつぶされる感じになる覇気ではなく、今にも殺されそうな感じになるのが威圧だ。ようするに、殺気とほぼ同じだ。ただ、威圧の方が少し弱い感じだ。


 技量によっては少し違うみたいだがな。


 ほら、ガタガタ震え始めた。何故かそれに喜んでいる奴もいるが。


 Mか? Mなのか? まあ僕は結構顔に自信があるし、そんなやつに威圧かけられたらMだったら喜ぶかな?

 うん。僕も長い時間生きてるからそっちのほうにも理解はある。理解はあるだけで経験はしたくもないのだが。


 そうして私は受付嬢の方へ歩き進める。


 ……少し他人の目が気になるな。


 多分だろうけど、さっきは俺の顔も見ずにケンカ腰に絡んで来ようとしたけど、よくよく顔を見たらよかったから絡まないでおこう、という結論に至ったんだと思う。


 そんな感じだったらよかった? のかな? しかしそれでも絡んでくる輩はいるもんだ。


 ズカズカと俺の前に憚る輩。男3人女2人って感じか。

 リーダー格っぽいガタイのいい男が俺に話しかけてきた。


「おい嬢ちゃん。ここは嬢ちゃんみたいな貧弱な奴がくるとこの場所ではないんだわ。さっさと家の床に入ってろ」


 へえ。結構なめてんな。まあ冒険者ギルドっていうのは実力至上主義組合だしな。これでも結構、気を使って言っているのだろう。普通なら「死ね! カス! ママのおっぱいでも吸ってろ!」とでも言うのだろうな。


 でもやっぱり舐められるのは屈辱的だ。どれ、ちょっとだけ力を入れるとするか。


 俺は王宮で使った覇気よりも強く、覇気を放った。なに、どんだけ弱くても腐っても冒険者だ。どっかの貧弱貴族達とは違うんだ。壁にめり込んだりしないだろう。


 先程のだって、あのくらいの覇気で壁にめり込むとは思わなんだ。


 ほら、この冒険者は大丈夫だ。少し怯えてるだけだ。白目向いてるだけ。


 そこで私はあることに気づく。


 ……あれ? こいつ気絶してる? 


 ……してるよね? あー目の前の男が倒れてくー。


 目の前の男が綺麗にバタンと倒れた。棒のように倒れたね。


 覇気は遠くに放てば放つほど効果は薄れる。しかも今俺が放った覇気は範囲を狭くした。だから周りの奴は殆ど影響を受けてない。


 せいぜい影響が及ぼされるのは近くに居たこの男の仲間の仲間くらいだろう。でも他の奴は大丈夫だ。……大丈夫だよね?


 まあいいや。この男を踏みながら進もう。


 そう思ったが男の仲間たちは男を連れて冒険者ギルドを去っていった。


 周りの奴が恐怖の目で俺を見ている。懐かしいなこの感覚。

 そして俺はようやく受付嬢の前に行く。


 さっきでは舐められた目は、尊敬や恐怖の目、ありがたみの目などいろんな視線に変わっている。

 ちょっとした不都合があったが、無事に受付嬢の前にきた。


 ここに辿り着くまでに長かったような。短いような。いや、短いな。


「なにが用件でしょうか、と受付嬢なら聞くところでしょうが、まず最初にありがとうございます。」


「えーとなにがでしょうか?」


 受付嬢は、まず最初に感謝を申し上げた。

 彼女はナニヲイッテイルノダロカ?


「えーと、さっき貴方が倒したあの男の事です」


 僕が言葉に窮してしまったところを察した受付嬢は、そう説明する。


 あー、さっき倒したあの男のこと?


「えーとそれがなにかあったんですか?」


「あの男たち───リーダーはバアカというのですが、最近、冒険者ランクが上がったことで過信し始め、ああいう風に弱いもの虐めをするようになったのです。でもそれも今日で終わるかもですけどね」


 冒険者ランクというのは、冒険者のレベルのことだ。


 冒険者のレベルは7段階に分かれている。



 *


 最下層のFランク通称『無名』


 初心者のEランク通称『初心者』


 凡人のDランク通称『習慣しゅうかん者』


 中堅のCランク通称『技術者』


 上級者のBランク通称『中堅』


 規格外のAランク通称『実力者』


 神話級のSランク通称『化物』


 *



 この七つだ。Eランクは殆どいない。というか子供レベルだ。Fランクなどさらにやばい。というか論外。ある意味、人間じゃない。


「再度、申し上げますが、ありがとうございました。では、改めてご用件はなんでしょうか?」


 頭を下げられ、申し訳ない気持ちになってしまった。


「いいえ。大丈夫ですよ。あと、今日は冒険者登録しに来ました」


 ニコッとそんな笑顔をする。そんな僕に受付嬢は物腰柔らかめに俯きながら言う。


「……わかりました。では<エーテル>量検査を行います」


 <エーテル>量検査は水晶型の神代技術物アーティファクトを使って、<エーテル>量を数値化させる。<エーテル>と全ステータスは大体、比例しているから<エーテル>が高ければ全ステータスが高いということだ。


 例外はあるけどね。


 受付嬢は水晶型の神代技術物アーティファクトを持っていき「どうぞ」と言い僕に渡し来た。


 さて、ここからだ。どうしようか。私が本気を出したら、無論Sランク行きだろう。もしかしたら水晶型の神代技術物アーティファクトが壊れるかもしれない。いや、壊れる。とはいっても俺は<エーテル>制御が苦手だ。0か100かぐらいしか<エーテル>制御なんてできやしない。


 平凡までに<エーテル>を抑えるとなると、どんな<セレマ>でも制御が難しい。


 だけど<エーテル>が強いと大体、他人は感知する。


 でも俺が感知されないのは、俺の<エーテル>が強すぎるからだ。


 俺の<エーテル>が強すぎて逆に感知されないということだ。まあ凄く強い奴だと俺の事を感知するが、俺の<エーテル>を感知した瞬間、その<エーテル>量の威圧で気を失うだろう。


 う~ん……


 数刻の思考の末、その結論を述べる。


「えーと……クライシスさんの<エーテル>結果は『無名』ということになりました……」


 ───やってしまった。いや、抑えすぎた。やばい『無名』ともなるとなんのクエストも受けられない。逆に、『無名』が受けられるクエストなんてあるのか?


 結構どうしようか考えていると受付嬢はある素晴らしい提案をしてくれた。


「あの……一つだけ……あります」


 受付嬢は、ひそりと僕に伝えるように耳打ちした。


「パーティーを組むことができれば、クエストを受けられることができます」


 私が考えている姿を見たからかそんな提案を受付嬢はしてくれた。


 あ、なるほどね。そういう考えがあったか。


 じゃあそうなら俺は───


「それなら、僕とパーティーを組みませんか? 受付嬢さん」


 私は目の前にいる堂々とした姿の少女にそう言葉を告げた。

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