2ページ,王と対面

───同刻、カイメルス王国アサレル森林、ラーゼ・クライシス?


「?」


 私は、すっとぼけた顔を見せる。だが、そんなものはただの芝居。心を読めば、相手がどんなことを思っているのか手に取ってわかる。


「いや、少し事情を聴きたいので王国に来てもらいたいかと……」


「ああ……はい。分かりました」


 なにを言い訳をしても無駄だろう。郷に入っては郷に従え、ここは素直に従った方がいいだろう。


 残念そうにトボトボ歩く。道中で喋る事はない。あったとしても速攻で話を終わらせる。あまり自分のことは晒したくない。

 

 この聖騎士団長には俺は関わりづらい人だと思われてるだろう。というより、そうであってほしい。


 木々が漏れる日光を少しでも抑えんとばかりに茂っている。その木々が徐々に少なくなっていき、気づけば森も抜けていた。そして、その後も道路は続く。


 そうこうしている内に、意外にも早く王国に着いた。ざっと30分くらいか? 普通の人にしては早い方だろう。

 

 古くなった王国の門を潜ろうとうすると門番が僕の事を止めた。まあ当然だろうな。


「身分を証明できるものはありますか?」とでも言おうと思ったのか。でも聖騎士団を見るなり「申し訳ありません」と言い俺を離した。


 いやー便利だな。聖騎士団って。だって身分証が無くてもこうやって通してくれるんだから。     

 たかが、門だが、されど門である。厳格あるその石垣を軽い足取りで踏み進める。


 僕が門をくぐると同時に、王国の敷地が中世的な建物から一気に近未来の都市に姿が変わる。


 背の高いビルが連なり美形としたデザインの建物も出てくる。道も凸凹でこぼこではなく、白が基調とされた舗装の道となる。

 

 ふと、先程の門はどうなっているのか後ろを振り返る。

 

 するとそこにあったのは先程まであった古びた門ではなく、キラびやかな近未来のゲートに変わっていた。


 そこで僕は、考えが完結する。


 これは、都市全体を幻覚聖法でまだ発展途上国みたいにしているということだと思う。


 しかも、都市全体を拡張聖法で普通の土地を2倍に広げているのか。そして門を潜った者のみ聖法が解かされる。


 にしてもこの規模でこの高度な聖法、普通なら聖力が持たないだろう。きっとなにかの神代技術物アーティファクトを使っているのだろう。


 神代技術物アーティファクトは、太古の昔、神代と呼ばれた時代に栄えた都市が生み出した技術物。その性能は素晴らしく、現代の技術でさえも上回る物も現存する。


 こういう、都市全体を聖法で包んでいる国は何国かあると知っていたが、都市ごとに都市を変える方法が違う。このやり方は初めて知った。


「流石、クライシス殿ですな。この構造をすぐに理解できるとは」


 横にいた聖騎士団長のカムトリエさんが言った。〈スキル〉〈読心術〉でもやったのだろう。〈読心術〉は言葉の通り心を読むスキルだ。


 といってもカムトリエさんでも、俺の表面的心理だけで内面的心理は見えてないだろう。もしかしたら内面を見えていたとしても、あやふやしか分からないだろう。ちなみにカムトリエさんの名前はこっそり〈スキル〉〈鑑定〉して見ちゃった。


「……こんなにすごい聖法技術は初めて見ましたよ。正直驚きました」


 今言ったことはちょっと嘘だ。これは、凄い技術だが、俺はこれより凄い技術をしている奴を知っている。でもまあ人間じゃないから数える内には入らないか。


 カムトリエさんに心の中で謝っておく。


「いえ、たしかにこういう幻覚や拡張聖法などは技術的には進んでますが、攻撃などはあまり……」


 "聖法"は"魔法"と真逆の存在だ。


 魔物や魔族などは攻撃性の高い"魔法"を使うのにたいして"聖法"は人族や亜人族が使う。主に守備特化型と言われている。


 なぜ、そうなのかと言うと、それは宗教の問題だ。人族などが慕う神は攻撃をあまり使わない奴だ。しかもどっちかというと、守備などで自分や相手を守る奴だ。


 無駄な殺生はしたくないとか言っていた。僕にはよく分からない考えだ。


 逆に魔族などが使う魔法は、攻撃こそ至上の神を慕っている。私はあいつが苦手だ。力ばっかりでそれ以外は興味がない。

 

 あいつの唯一の妻だって構ってもらえなくて堂々と不倫していた。あいつはそのことに気づいていても、そのことを後回しに、力を探求していた。

 

 ……あいつとは友達とは呼べるか分からなかったが、力を探求する以外では良い奴だった。今はなにをしているだろうか。僕の考えだと、多分もう代替わりされているだろう。


「クライシス殿、王宮に着きましたぞ」


 そんな昔のことを思い出してたら、王宮に着いた。王宮を一目見た瞬間、僕は思った。その城はとても豪勢、としか表せなく、それ以上の言葉など僕には持ち合わせてなかった。


 よくもまあ、昔の王族が金をふんだんに使ったんだろうな、と思うような感じだ。


 そういえばカムトリエさんの鎧が違う。というより聖騎士全体の鎧が違う。凄い着心地がよさそうな鎧だ。普通に私服として着てても良さそう。これも幻覚聖法が解けた所為せいだろう


 まあそんなことは後にして、俺は王宮の門を潜った。今度は門番になにもいわれなかった。よかった。まあ横にカムトリエさんがいるからですね。

 

 すると門番の奥にいた使用人みたいな人が王宮の扉を開けた。この門を開けるだけで相当なマッスルが必要なはずだ。どうやら相当な手練れのようだ。それに全然、隙がない。流石、王宮の人だな。 


 一見、筋肉がないように見えるのは気のせいではないだろう。<セレマ>で体を強化しているはずだ。〈鑑定〉でその体を見れば<エーテル>が全身を巡っているのがわかる。


 私はペコッと一回お辞儀をして王宮に入った。彼は、いえいえと言わんばかりの笑顔で返した。どうやら優しい人らしい。この人は幸せになれればいいな。


 王宮の中に入ると───そこはもう凄いよ。うん。皆、王宮って想像してみ? その2倍凄いから。というより豪華すぎて語彙が消えちゃう。


 そして、なによりも思うのが……金、使ってそ~。


 しばらく歩き回ったら(カムトリエさんの後ろを付いていったら)王室という部屋についた。これ、カムトリエさんと一緒に付いていかないと迷子になるやつだ。というよりカムトリエさん、この城の構造覚えとるんか?


 いや普通に考えたらすげえぞ。

 

 おっとまたこうやって考えごとしてたらまた迷惑しそうだ。さっさと王室に入ろう。


 カムトリエさんに目線で入っていいか聞くと、有無を言わずに首肯をしてくれたので、僕は本能のまま、ドアノブがないドアに手をかざす。手をかざすのは陣が描かれている部位だ。


 するとドアが勝手に開く。これは法動ほうどうドアという手をかざすと陣が起動して開くというドアだ。


 <エーテル>がなくても<セレマ>が使えるのはどういうことかというと、ドアに咒石じゅせきという<エーテル>が込められている石が埋め込まれているからだ。

 

  、こんなのが残ってたとはな。


 ドアを開かれると、長い赤いカーペットが敷かれていて横には貴族らしき豪華な服を着た者たちが私の顔を見るなり騒ぎ始めた。


 懐かしいな。

 

 そして私の真正面に居る王様っぽい人が「静まれ」というと皆の口が閉ざされた。


 間違いない。これは王族限定のスキルだ。


 スキルというのは血族にも関係する。はるか昔、ここを統治した始祖の王が持っていたとされる〈強者の絶対権利〉が王になったことをきっかけにスキルが特殊進化し、〈帝王の絶対支配〉に名前とスキルの権能、さらに特殊スキルへと変化した。


 特殊進化とは、普通の人が貴族や王になった時、神がその功績を称え『世界の管理者』に申請する。その申請が認められたらランダムで自分の持ってるスキルが一つ、運が良ければ二つ特殊進化がされる。


 ここの王だとこんな感じ。


〈強者の絶対権利〉

権能:自分の全ステータスが相手の全ステータスを上回ったら相手を自分の思い通りにできる。

  

 ↓特殊進化


〈王の絶対支配〉

 権能:自分が相手より上だと思ったら、相手を支配できる。

 特殊効果:血族継承[血筋の長男にスキルが継承される。]


 こんな感じのスキルのおかげで代々この国の王族は威厳を保ってきた。


 おおっと考えすぎた。なんか王の側近の人が長々色んなことを言ってんな。えーとなになに?ふんふん、めっちゃ簡単に言うと「あなたは物凄い業績を残しました。だけど、どうやってブルーワイバーンを殺したのですか。」ていう感じだな。


 うーん。わかりやすい!


 えーとなんて答えよう。そうだなあ。ながったるしく説明しても相手が困るだけだし……


 そして、少し考えて出た結果をそのまま口にする。


「パンチです」


 簡潔に答えた。こんなん真面目に長々変な文章を言い連ねるなら簡潔に答えてさっさとこんなことなんか終わらせたほうがいい。


「えーと、もう少し詳しく説明していただけると……」


 王の近くにいる側近らしき方が言いにくそうに答える。


 え? まじ? そーだなー


「えーとブルーワイバーンの上に転移してブルーワイバーンに向かって頭をワンパンチしました」


「……」


 側近の人が額に手を当て呆れている。


 僕、さっきより細かく答えただけなんだけどなー。そのはずなんだけどなー。

 側近の人が呆れていると、王様が随分と豪華な椅子から立ち、腰に手を当てる。


 そして────


「ワハッハッハ!!」


 なんとも豪快に笑い始めた。なんだ?俺の話がやばすぎて笑っちまったのか?


「なんとも愉快な奴よのう!」


 どうやら違ったみたいだ。よかった。


 金色の髭に手を当て、疑問の顔がでるがニコッとし、王は言う。


「どれ。お主は女子おなごかの?それとも、もしや男か?!」


 ……一つ冗談を言ったつもりだろう。───だが、その話は俺にとってはタブーだ。


「いいや。違う。───それと、その話はあまりしないでいただきたい」


 俺は、俺にとってだいぶ手加減をした覇気をその場で放った。

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